2021年01月16日

くらもちの皇子と蓬萊の玉の枝K

花粉症もじわじわ来ていますが、今年の冬は手荒れがヒドいです。続きです。このタイトルでの最終回です。
〈本文〉
血の流るるまで打(ちやう)ぜさせたまふ。禄(ろく)得(え)し甲斐(かひ)もなく、みな取り捨てさせたまひてければ、逃げうせにけり。
 かくて、この皇子は、「一生(いつしやう)の恥(はぢ)、これに過ぐるはあらじ。女(をんな)を得ずなりぬるのみにあらず、天下の人の、見思はむことのはづかしきこと」とのたまひて、ただ一所(ひとところ)、深き山へ入(い)りたまひぬ。宮司(みやづかさ)、さぶらふ人々、みな手を分(わか)ちて求めたてまつれども、御死(おほんし)にもやしたまひけむ、え見つけたてまつらずなりぬ。皇子の、御供(おほんとも)に隠したまはむとて、年(とし)ごろ見えたまはざりけるなりけり。これをなむ、「たまさかに」とはいひはじめける。
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〈juppo〉度重なる手指の消毒に加えて今年の冬は、台所のレンジ周りをちびちび掃除していたら指先がひび割れて痛いです。
 
 前回、くらもちの皇子が工匠らを待ち伏せしていたところで〈つづく〉にしてしまったため、今回は唐突に「血の流るるまで」打たれる工匠たちからスタートします。皇子のあまりにひどい仕打ちにページを分けずにいられなかったのです。鬼畜の所業ですよね。自分の失敗を部下に当たり散らすブラック企業の上司の先祖ですね。当たり散らすだけならまだしも、身体を痛めつけた上にせっかくもらったご褒美を取り上げるのみならず捨ててしまうとは。
 その後、急に自らを恥じていますが、別にこれは工匠らに対する態度のことは一切恥じてはいないんですよね。「天下の人」がどう思うか、ということの中にその要素が入っているかもしれませんが、入ってない感じですよね。ひたすら名誉が毀損されたことへの絶望ではないかと。

 「竹取物語」は一つ一つのエピソードに「慣用句はじめて物語」みたいな薀蓄(うんちく)が付いているのが面白いですね。今回は、ここから「たまさかに」と言うようになったんだよ、と。
 「たまさかに」は「たまたま」と言う意味で今でも使うというか、最近使わなくなったけど昔は使ってたなぁ、と思ったのでそのままにしました。「コンビニに行ったらたまさか知り合いに会ってさー」なんていうふうに今でも使っていただければ。

 これにてくらもちの皇子のお話はおしまいです。次に何を描くかは未定です。何も思いつかなければ「竹取物語」を続けます。かぐや姫を狙う男はまだ残っていますので。
 
posted by juppo at 23:58| Comment(0) | 竹取物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年01月10日

くらもちの皇子と蓬萊の玉の枝J

皆さん、忘れているかもしれませんが、そろそろ花粉症の季節ですよ。ムズムズしてきましたよ。続きです。
〈本文〉
 かぐや姫の心ゆきはてて、ありつる歌の返し、
 まことかと聞きて見釣れば言(こと)の葉(は)をかざれる玉の枝にぞありける
といひて、玉の枝も返しつ。
 たけとりの翁、さばかり語らひつるが、さすがにおぼえて眠(ねぶ)りをり。皇子は、立つもはした、ゐるもはしたにて、ゐたまへり。日の暮れぬれば、すべりいでたまひぬ。
 かの愁訴(うれへ)せし工匠(たくみ)をば、かぐや姫呼びすゑて、「嬉しき人どもなり」といひて、禄(ろく)いと多く取らせたまふ。工匠らいみじくよろこびて、「思ひつるやうにもあるかな」といひて、帰る。
 道にて、くらもちの皇子、
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〈juppo〉年末に更新が間に合ったことに安心してしまい、年始はほぼ何もしないで過ごしてしまいました。駅伝見てました。年始は、と言ってももう10日ですね。
 その年末に、あと2回分のくらもちエピソードを描きかけてはいたのです。うっかり10日も過ごしてしまってからやっと思い出して仕上げました。そうです。あと2回でくらもちの皇子ともお別れです。

 玉の枝が偽物と分かった以上、こんな男と結ばれずに済んだかぐや姫はたちまち精気を取り戻します。そうだわ返歌もまだだったわ、とノリノリで詠んでいます。「心ゆきはてて」の「ゆき」が「晴れて」という意味です。
 一方の翁はあんなに会話が弾んだのに、いや弾んだばっかりに、今となってはどういう態度をとったら良いか分からず寝たふりです。「さすがに」が「そうは言っても」という意味です。「流石」ではないんですね。
 「愁訴」は今は「しゅうそ」という読みになりますが、古語では「うれへ」なんですね。工匠の皆さん、労働の対価をかぐや姫に払ってもらうつもりでしたが、望み通りご褒美をいただくことができました。このご褒美は玉の枝を作った褒賞ではなく、皇子の企みを暴いてくれたことへのお礼なんでしょうけどね。
 これで八方丸く収まったと思ったら、なんと執念深いことか皇子が待ち伏せです。一体どんな魂胆が?という引きのために文の途中で切ってしまいました。

 次回がやっと最終回です。皇子に立ちはだかられた工匠たちに何が起こったか!?つづく!!
posted by juppo at 23:48| Comment(0) | 竹取物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年12月31日

くらもちの皇子と蓬萊の玉の枝I

今度こそ、閑話休題の続きです。「大鏡」は閑話じゃないですけどね。
〈本文〉
 皇子の君、千日、いやしき工匠らと、もろともに、同じ所に隠れゐたまひて、かしこき玉の枝を作らせたまひて、官(つかさ)も賜はむと仰(おほ)せたまひき。これをこのごろ案(あん)ずるに、御使(つかひ)とおはしますべきかぐや姫の要(えう)じたまふべきなりけりとうけたまはりて。この宮(みや)より賜はらむ。
と申して、「賜はるべきなり」といふを、聞きて、かぐや姫、暮るるままに思ひわびつる心地、笑ひさかえて、翁を呼びとりていふやう、「まこと蓬萊の木かとこそ思ひつれ。かくあさましきそらごとにてありければ、はや返(かへ)したまへ」といへば、翁答(こた)ふ、「さだかに作らせたる物と聞きつれば、返さむこと、いとやすし」と、うなづきをり。
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〈juppo〉年内を目指すと言った手前、花山天皇の行く末を見届ける寄り道をしましたが、こちらの続きも今年中に描いておかなければと、カウントダウンにさしかかかる時間になっての更新です。

 前半は工匠らが持ち込んだ訴状を読んでいます。この工匠らは「身分が低い」ので、皇子からの「官」をという申し出は魅力だったことでしょう。身分も収入も保証されるんですからね。
かぐや姫が「御使」だと言われているのは、皇子とかぐや姫はまだ結ばれていないんですけど、結ばれたとしても位としてはお妃ではなく、それより下のお仕えする女性、てことなんですね。
 それでいよいよ結ばれそうなふたりです。いきなり「暮るるままに思ひわびつる心地」になってますが、このままだと夜になったら皇子と結ばれるしかないことに、かぐや姫は相当ブルーになってたんです。そこへ持ってきて工匠らの大暴露です。これまた急に「笑ひさかえて」しまうのも無理はありません。起死回生です。
 翁はちょっと残念。かもしれません。

 まだ少し続きます。年またぎの連作になります。
 皆様、よいお年を。
posted by juppo at 23:53| Comment(3) | 竹取物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年12月24日

花山院の出家B

続きです。メリクリです。
〈本文〉
花山寺におはしまし着きて、御髪(みぐし)おろさせたまひて後(のち)にぞ、粟田殿は、「まかり出出て、おとどにも、かはらぬ姿、いま一度見え、かくと案内(あない)申して、かならずまゐりはべらむ」と申したまひければ、「朕(われ)をば謀(はか)るなりけり」とてこそ泣かせたまひけれ。あはれにかなしきことなりな。日頃、よく、「御弟子にてさぶらはむ」と契りて、すかし申したまひけむがおそろしさよ。東三条殿(とうさんでうどの)は、「もしさることやしたまふ」とあやふさに、さるべくおとなしき人々、なにがしかがしといふいみじき源氏の武者(むさ)たちをこそ、御送りに添へられたりけれ。京のほどはかくれて、堤(つつみ)の辺(わたり)よりぞうち出でまゐりける。寺などにては、「もし、おして人などやなしたてまつる」とて、一尺(ひとさく)ばかりの刀どもを抜きかけてぞまもり申しける。
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〈juppo〉聖なる夜に、悲しいお話をお届けしなければなりません。ここまで描いてこそ「花山院の出家」をcompleteなのは、信じた者に裏切られて不本意なまま出家するに至った帝の悲運を見届けるためだったのですね。

 名前を整理します。「粟田殿」はここにいる道兼のことです。道兼の父「おとど」は藤原兼家です。5コマ目に登場していますが、自分が過去にこのブログですでにそのキャラを描いてなかったかどうか、しばし調べました。多分初登場です。
 この父と、息子道兼の間では帝だけに出家させてそれに付き合うつもりはないことは、打ち合わせ済みだったようですね。そうとは知らず、剃髪してしまってから陰謀に気づいた帝のショックやいかばかり・・です。
 道兼は父親に様子を見せたら戻ってくると言ってるのですけど、戻ってくる気がないことにはすぐに気づく帝です。もっと細々したやりとりや素振りがあったのかもしれませんが、ここでは大筋しか語られていません。何しろ、頼りになる護衛をつけましたよ、ってとこで唐突に終わりです。この続きはないんです。


 ですから次回は「くらもちの皇子」に戻ります。
posted by juppo at 21:14| Comment(0) | 大鏡 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年12月22日

花山院の出家A

急に「大鏡」です。とあるリクエストで。
くらもちの皇子の続きは「近日中に」と言っておいて続かない、そんなブログです。
〈本文〉
さて、土御門(つちみかど)より東(ひんがし)ざまに率(ゐ)て出(い)だしまゐらせたまふに、晴明(せいめい)が家の前をわたらせたまへば、みづからの声にて、手をおびたたしく、はたはたと打ちて、「帝王(みかど)おりさせたまふと見ゆる天変ありつるが、すでになりにけりと見ゆるかな。まゐりて奏(そう)せむ。車に装束(そうぞく)とうせよ」といふ声聞かせたまひけむ、さりともあはれには思し召しけむかし。「且(かつがつ)、色神一人内裏(だいり)にまゐれ」と申しければ、目には見えぬものの、戸をおしあけて、御後(うしろ)をや見まゐらせけむ、「ただ今、これより過ぎさせおはしますめり」といらへけりとかや。その家、土御門町口(まちぐち)なれば、御道なりけり。
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〈juppo〉何の前触れもなく「大鏡」で、しかもAです。@はこちらにあります。なんと2011年1月の投稿です。10年前ですね。
 実は@だけ描いた、もとは「天皇御出家」というタイトルだったその記事と、その前の「花山天皇」とを、書籍「高校古文まだまだこういう話」に掲載するつもりでした。ところが、編集段階で「ちょっと待った」が入りました。この続きが重要なのでそれを描くべきだということでした。その時に描かなかったのは、時間がなかったからです。その翌年に出た「高校古文じっくりこういう話」の時にはその話題が出なかったので、スルーされることになり、@を描いてから10年、続きを描く案が出てから2年も経ってようやく、作品化にこぎつけました!
 今やっと描いたのは今年出版されるはずだった5冊目の書籍に入れる予定があったからです。今年はもう出ません。来年のお楽しみです。ご期待ください。

 今回は花山帝が粟田殿こと藤原道兼に連れられて、出家への途についたところです。その通り道に住んでるのがあの、安倍晴明ですよ皆さん、陰陽師ですよ。
 晴明は帝が退位するのを前もって知っています。式神は「しきがみ」ですが「しきしん」とも「しきのかみ」とも言ったりするようで、陰陽師の手となり足となる鬼神だとか。人じゃないんですね。
そういうキャラですし「目には見えぬ」ということなので、ぼんやり描いておきました。

 続きがあります。もう1回。くらもちの皇子については、その後で。年内を目指します。

posted by juppo at 00:19| Comment(0) | 大鏡 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする