〈本文〉
あやしうをどりありく者どもの、装束(さうぞ)きしたてつれば、いみじく定着(ぢやうぎ)などいふ法師(ほふし)のやうに、練りさまよふ、いかに心もとなからむ。ほどほどにつけて、親、をばの女、姉などの、供しつくろひて率(ゐ)てありくもをかし。
蔵人(くらうど)思ひしめたる人の、ふとしもえならぬが、その日青色着たるこそ、やがて脱がせでもあらばやとおぼゆれ。綾(あや)ならぬはわろき。

〈juppo〉五月ももう終わりですねー。タイトルは「三月三日は」ですけど、ここでの賀茂祭は五月に行われているので、そう季節外れでもありません。
お祭りの日が待ちきれない子どもも、いざ当日が来るとかしこまって参加しているようです。「定着」というのは、法会の際、香炉を持って歩くお坊さんのことだそうです。
お祭りの様子より、それに出かける人たちの様子を、何よりその装束に関心を寄せているところは、清少納言さんならではだという以前に、絵にしやすくて助かりました。
「蔵人」は天皇のお側にお仕えする役職で、この男性は昇進したいと思っているわけですが、清少納言さんにとってそんなことはどうでも良く、ただし青の袍が綾織物でないのは良くないと、こういう微妙な価値観が「枕草子」の人気の秘密なのかなー、と思ったところでおしまいです。
最近リクエストが少なくなっていて、今回は季節ものをお届けしましたが、次回はリクエストをいただいた作品を描きます。何を描くかは言わないでおきます。