2021年05月30日

三月三日はC

最終回です。
〈本文〉
あやしうをどりありく者どもの、装束(さうぞ)きしたてつれば、いみじく定着(ぢやうぎ)などいふ法師(ほふし)のやうに、練りさまよふ、いかに心もとなからむ。ほどほどにつけて、親、をばの女、姉などの、供しつくろひて率(ゐ)てありくもをかし。
 蔵人(くらうど)思ひしめたる人の、ふとしもえならぬが、その日青色着たるこそ、やがて脱がせでもあらばやとおぼゆれ。綾(あや)ならぬはわろき。
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〈juppo〉五月ももう終わりですねー。タイトルは「三月三日は」ですけど、ここでの賀茂祭は五月に行われているので、そう季節外れでもありません。

 お祭りの日が待ちきれない子どもも、いざ当日が来るとかしこまって参加しているようです。「定着」というのは、法会の際、香炉を持って歩くお坊さんのことだそうです。
 お祭りの様子より、それに出かける人たちの様子を、何よりその装束に関心を寄せているところは、清少納言さんならではだという以前に、絵にしやすくて助かりました。
 「蔵人」は天皇のお側にお仕えする役職で、この男性は昇進したいと思っているわけですが、清少納言さんにとってそんなことはどうでも良く、ただし青の袍が綾織物でないのは良くないと、こういう微妙な価値観が「枕草子」の人気の秘密なのかなー、と思ったところでおしまいです。

 最近リクエストが少なくなっていて、今回は季節ものをお届けしましたが、次回はリクエストをいただいた作品を描きます。何を描くかは言わないでおきます。
posted by juppo at 18:50| Comment(6) | 枕草子 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年05月26日

三月三日はB

「三月三日は」の第三回。三づくしです。続きです。
〈本文〉
 祭近くなりて、青朽葉(あをくちば)、二藍(ふたあゐ)の物ども押し巻きて、紙などにけしきばかりおし包みて行きちがひ持(も)てありくこそをかしけれ。据濃(すそご)、むら濃(ご)なども、常よりはをかしく見ゆ。
童(わらは)べの、頭(かしら)ばかり洗ひつくろひて、なりはみなほころび絶え、乱れかかりたるもあるが、屐子(けいし)、沓(くつ)などに、「緒(を)すげさせ、裏をさせ」などもてさわぎて、いつしかその日にならなむといそぎおしありくもいとをかしや。
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〈juppo〉相変わらず葵祭がどんなお祭りなのかよくわからないまま描いている私ですが、今回は祭の準備の様子です。

 青朽葉は「青みがかった朽葉色。朽葉は赤みを帯びた黄色」と、説明にあります。一体何色になるのでしょうか。
 二藍は「藍と紅の中間の、青みのある赤」だそうで。あえてわかりにくく言ってないか?と疑わしい表現です。検索して現物を見た方が早そうです。

 まあ何しろ、いつもより品も色も良い布地を用意して、祭りに行く装いを凝らそうというわけです。小さな子さえ準備に怠りはありませんが、そこは子どものこととて、いろいろとちぐはぐな様子を暖かく見守る清少納言さんなのです。

 「屐子」は足駄のような履物だそうなんですけど、「屐」という字が難しくて漢和辞典で調べたら、読みは「ケキ/ゲキ」で、この文字だけで「はきもの」の意味を持っています。「歯のある木製の履物、下駄の意」だそうですよ。漢和辞典には靴のような絵がありましたが、「屐子」で画像検索すると下駄がいっぱい出てきます。

 葵祭には全く詳しくありませんが、お祭りに行く日を待ちながら、着て行くものを選んだり準備したりする楽しみは良くわかります。普段着でない装いに、またワクワクするものですね。


 早くも次回は最終回です。近いうちに必ず。
posted by juppo at 23:27| Comment(2) | 枕草子 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年05月22日

三月三日はA

続きです。今回は四月になっています。
〈本文〉
 四月、祭のころ、いとをかし。上達部(かんだちめ)、殿上人(てんじやうびと)も、うへの衣(きぬ)の濃き薄きばかりのけぢめにて、白襲(しらがさね)とも同じさまに、涼しげにをかし。木々の木(こ)の葉まだいとしげうはあらで、わかやかに青みわたりたるに、霞(かすみ)も霧もへだてぬ空のけしきの、何(なに)となくすずろにをかしきに、すこし曇りたる夕つ方、夜など、しのびたる郭公(ほととぎす)の、遠く空音(そらね)かとおぼゆばかりたどたどしきを聞きつけたらむは、なに心地かせむ。
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〈juppo〉訳本によっては、ここからの四月のお話まで、「正月一日は」で括っているものもあります。また、月ごとに分けて章立てしているものもあります。ここでは、三月四月でまとめました。
 それでここからは四月です。

 祭とは賀茂祭ですが、葵祭のことです。どちらにせよ、東京モンの私にはあまり馴染みがありません。賀茂祭が正式名称で、5月15日に行われるんですね。四月になっているのは、陰暦だからです。
 私が知らないだけで、平安時代には祭といえば賀茂祭のことだったそうです。それだけ楽しみでもあったようで、こぞって着飾って車に乗って見物に行ったんですね、貴族の皆さんは。
 「うへの衣」は袍(ほう)のことです。と言われても「ホウってなんだよ!」ですよね。偉い人が偉い式典で一番上に着る着物のことです。正装です。
「けぢめ」は今だと「けじめをつける」となりますが、区別とか違いという意味です。
 清少納言さんは自然のものへの観察同様、ヒトのおしゃれにも鋭い視線を向けています。

 「霞も霧もへだてぬ空」とは、霞や霧が空を「隔てない」ということで、「隠してない」ということですね。澄みきった空を表しているわけです。
 ウグイスが練習で鳴くような鳴き方は耳にすることがありますが、ほととぎすもそんな鳴き方をするんですね。

 あと2回続きますが、ネタバレするとここからお終いまで祭の話です。ことほど左様に、四月といえば「祭よ!」ということだったのでしょう。
posted by juppo at 22:57| Comment(0) | 枕草子 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年05月18日

三月三日は@

五月も半ばを過ぎたところですが、以前描いた「正月一日は」の続きです。
〈本文〉
 三月三日は、うらうらとのどかに照りたる。桃の花の今咲きはじむる。柳などをかしきこそさらなれ。それもまだ、まゆにこもりたるはをかし。ひろごりたるはうたてぞ見ゆる。おもしろく咲きたる桜を、長く折りて、大きなる瓶(かめ)にさしたるこそをかしけれ。桜の直衣(なほし)に出袿(いだしうちき)して、まらうどにもあれ、御せうとの君達(きんだち)にても、そこ近くゐて物などうち言ひたる、いとをかし。
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〈juppo〉ここからの4回は、三月四月についてのお話です。五月も半ばだというのに。
 三月三日といえば桃の節句ですね。この頃から、貴族の子女がお人形やらで遊ぶ日であったようですが、お話にはその様子は出てきません。「上巳(じょうし)の節句」と言って三月上旬の巳の日に祝ったそうです。水辺でお祓いをする「曲水宴(きょくすいえん)」とかいうイベントもあったようです。
 そんなことはどうでも良かったのかどうかわかりませんが、清少納言さんはあくまで外の世界に目を向けていますね。「木の花は」や「鳥は」など、「枕のペディア」と呼びたいような自然を羅列したシリーズが「枕草子」にはありますが、それを補うような内容ですね。

 「柳」が「まゆにこもりたる」というのは、柳の葉がまだ開ききってなくて丸くなっているのを表現しています。絵にしたように、人の眉と蚕の繭をかけて言ったりしてるそうです。
 4コマ目の桜は、この時代は山桜でソメイヨシノではありません。

 木や花だけでなく、今回は周りの人の装いにも細かい関心を寄せている清少納言さんです。
「桜の直衣」は表が白で裏が赤の直衣で、「出袿」はその直衣の下に着る袿を、見えるように出して着ることだそうです。1980年代にトレーナーの下のシャツの裾をはみ出させて着るのが流行りましたが、そんな感じですかね。そんなファッションもこうして解説する時代が来たと思うと、100年や200年はあっという間なんでしょうね。

 次回は近日中に。今月中にあと3回、更新します。
posted by juppo at 13:41| Comment(3) | 枕草子 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする