2021年10月24日

能は歌詠みA

@を上げて1週間ぐらいで続きを更新しようと思っていたのですが、1週間は思いの外速く過ぎてしまい今日になりました。続きです。
〈本文〉
「このはたをりをばきくや。一首つかうまつれ」とおほせられければ、「あをやぎの」と、はじめの句を申出(まうしいだ)したるを、さぶらひける女房達、おりにあはずと思(おもひ)たりげにて、わらひ出だしたりければ、「物をききはてずしてわらふやうやある」と仰(おほせ)られて、「とくつかふまつれ」とありければ、

 青柳のみどりのいとをくりをきて夏へて秋ははたをりぞなく

とよみたりければ、おとゞ感じ給(たまひ)て、萩をりたる御ひたたれを、をしいだしてたまはせけり。寛平歌合に、はつ鴈を、友則、

 春霞かすみていにしかりがねは今ぞなくなる秋霧の上に

とよめる、左方にてありけるに、五文字を詠(よみ)たりける時、右方の人、こゑごゑにわらひけり。さて次の句に、霞ていにしといひけるにこそ音もせずに成(なり)にけれ。おなじ事にや。
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〈juppo〉急に寒くなりました。寒いと、グズグズしますよね。何かと。

 さて前回、唐突に大臣から特技の歌詠みを指摘された侍でした。自ら「得意です!」と言っただけあって、一瞬硬直したものの、与えられたお題「はたをり(きりぎりす)」で見事に詠んでみせた後編です。
 女房たちが笑ったのは、きりぎりすといえば秋なのに、「青柳」は初夏のもので季節が違うよ〜ということなんですけど、その青柳を取っておいて、秋にきりぎりすが機織りしてるよという歌だったんですね。「最後まで聞かんかい!」と女房たちを一喝した大臣、つくづく出来たお人ですね。こういう人が上司であったら仕事も楽しかろうというものですね。
しかも詠まれた歌にかなり心を打たれたようで、すかさず贈り物まで賜ってくださる。太っ腹な上司でもあります。ここが肝心です。

 後半の3コマは、今回のさすがな歌詠みの話はそういえば、かつての歌の名人にも同じようなエピソードがあるよ、という挿話です。別にこの部分がなくても「能は歌詠み」な話は成立すると思うんですけど、こういう他の話に例えるのって、古文の世界ではよくありますね。
 「寛平の歌合」というのは、宇多天皇の時に行われた歌合わせの会のことで、左右に分かれて歌を読みあったんだそうです。友則は紀友則のことかな、と思いましたが、歌は「詠み人知らず」の作品のようです。

 「青柳の」も「春霞」も、その場面だけでなく、次の季節から振り返って詠んだ時の流れも盛り込んだ歌になっているんですね。人が何かを披露しているときは、最後までじっくり見てから批評しようね、というお話ですよね。

 
posted by juppo at 19:35| Comment(0) | 古今著聞集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年10月14日

能は歌詠み@

秋らしくなってまいりました。リクエストにお応えします。いただいてからかなり放置してしまったリクエストです。申し訳ありません。古今著聞集です。
〈本文〉
 花園の左大臣の家に、はじめてまいりたりける侍の、名簿(みやうぶ)のはしがきに、能は歌よみと畫(かき)たりけり。おとゞ、秋のはじめに南殿に出て、はたをりのなくを愛しておはしましけるに、くれければ、「下格子(げかうし)に人まいれ」と仰(おほせ)られけるに、「藏人五位たがひて、人も候はぬ」と申(まうし)て、この侍まいりたるに、「たゞさらば汝おろせ」と仰られければ、まいりたるに、「汝は歌よみな」とありければ、かしこまりて御格子おろしさして候に、
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〈juppo〉「書く」が旧字だったり、「藏」とか「ゞ」とかもう使わない字が多いです。漫画の方では現代の字にしているので、そちらで読んでください。
 侍が「能は歌詠み」と書いたものを「名刺」と訳してありますが、名刺ではないです。就職の際に雇用主に出す「名ふだ」と解説にはありましたが、履歴書みたいなものでしょうね。履歴書に「長所・短所」を書く時って、悩みますよね。自分では長所だと思っているけれど、どうかなー、とか、長所なんてないなー、と一人で落ち込んでしまったり、とか。
 
 この侍は素直に「歌詠み得意です!」と書いて出しました。そんなはしがきに、しっかり目を留めていた左大臣、さすがです。「えっ、覚えてくださってる!」と急に固まる侍です。続きは後半で、になります。

 「はたをり」は「キリギリス」のことです。「南殿」は「なんでん」と読んで、南向きの御殿です。
 「藏人五位たがひて」というのは、それまで六位だった蔵人が六年の勤務後に五位に昇進して、一旦殿上から下がるそうで、ちょうど人事異動のまっ最中で今いません、ということのようです。
 そんな折にい合わせた侍、ということです。いろいろと難しい言葉はありますが、そういうものがあるんだな、とあまり気にせず読んでいいと思います。

 続きがもう一回。近日中に。
posted by juppo at 09:40| Comment(0) | 古今著聞集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする