2007年06月25日

梓弓(あづさゆみ)

〈本文〉
 むかし、をとこ、片田舎にすみけり。をとこ、宮づかへしにとて、別れ惜しみて行きけるままに、三年(みとせ)こざりければ、待ちわびたりけるに、いとねむごろにいひける人に、今宵(こよひ)あはむとちぎりたりけるに、このをとこきたりけり。「この戸あけたまへ」とたたきけれど、あけで、歌をなむよみて出(いだ)したりける。
 
 あらたまの年の三年を待ちわびてただ今宵こそにひまくらすれ

といひいだしたりければ、

 梓弓ま弓槻弓年をへてわがせしがごとうるはしみせよ

といひて、去(い)なむとしければ、女、

 梓弓引けど引かねど昔より心は君によりにしものを

といひけれど、をとこかへりにけり。女、いとかなしくて、しりにたちて追ひゆけど、え追ひつかで、清水のある所に伏しにけり。そこなりける岩に、およびの血して書きつけける。

 あひ思はで離(か)れぬる人をとどめかねわが身は今ぞ消えはてぬめる

と書きて、そこにいたづらになりにけり。

adusayumi.jpg
〈juppo〉えー、要するにミニョンにもう会えないと思ったユジンがサンヒョクと結婚しようと思っていたら・・・『冬ソナ』はロクに見たことないんで良くわからないんですけど、まぁそんな話です。3年も妻をほったらかした男も男ですが、結婚の約束をしていながら、元の夫を追いかけて行ってしまう妻も妻かな、と。今夜は初夜だぜ!と思っていたはずの新しい男の立場がありません。当時は「夫が行方不明になって3年経ったら、子どものない女は再婚していーよ」という法律があったらしいです。大ざっぱでいいですね。
 「梓弓」は「ひく」とか「はる」とか「よる」とか「かえる」にかかる枕詞です。弓の形が引いたり寄ったりする様子に男女の中をかけているのですね。
 ところでそろそろ期末テストですよねー。最近は2期制の学校も多く、前期の期末テストは夏休み後にやったりするところもあるようですが、私だったら期末テストを終えてせいせいした気分で夏休みを迎えたいものだな、と思いますがどうですか。どうせ夏休みの宿題は出るわけですけど。ゆとり教育になっても、一向に夏休みの宿題というのはなくならないんですねー。皆さん、頑張って下さい�
posted by juppo at 23:28| Comment(9) | TrackBack(2) | 伊勢物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして。福岡県で高校の教員をしているものです。
「梓弓」の段、とってもかわいらしく、なによりわかりやすく描かれていますね。
古典の授業で、来週ちょうど「伊勢物語」を読むのですが、プリントにして生徒に配付したいと考えています。よろしいでしょうか?
どうぞよろしくお願いいたします。

2009/6/20
Posted by 中西 博子 at 2009年06月21日 00:26
中西先生、コメントありがとうございます!
私のマンガでお役に立てるなら、是非授業で使っていただきたいと思います(*^_^*)
生徒の皆さんが少しでも古文に興味を持ってくれるといいのですけど!
これからもよろしくお願いします(^O^)
Posted by 柴田 at 2009年06月21日 00:38
はじめまして。学校に携わる者でもなく、学生にも関係はないんですけど、昨年秋に梓弓の歌ってどうだったけ?と思い、検索しているうちにこちらにたどり着きました。ちょうど真弓の実の枝を買った時です。
その後も、ちょくちょくこちらにお邪魔させてもらって楽しんでいます。古文にしても、語学にしても、知っていると心豊かになるというか、生活のちょっとした一こまが楽しくなるなあと思うものの、なかなか自分で勉強しません。(^^;) 古文のお話の漫画をネットで、というのはとてもありがたいです。さらに、漫画の下の、柴田さん自身の感想もおもしろいなと思いながら読んでいます。ぜひこれからもがんばって描いてほしいです。
わたしもブログを持っているのですが、自分のページにこちらをリンクさせていただいても構わないでしょうか?もしよろしければぜひ。
Posted by sue at 2010年06月25日 12:32
sueさま

コメントありがとうございます!
『高校古文…』というタイトルのブログですが、実は大人の方にも楽しんでいただきたいと思って作っています!
sueさんのような方に見ていただいていると思うと、とても嬉しいですっ。

リンクの件ですが、はい、よろしくお願いいたします。私も後でふらっ、と遊びに行きます(^-^)
Posted by 柴田 at 2010年06月25日 12:45
初めまして。神戸の甲南大学で留学生に日本語を教えている森川結花と申します。よろしくお願いします。
「梓弓」の段を留学生に教える機会があり、この漫画をスライドで映写して使わせていただきました。その模様をブログにも書かせていただきました。http://blog.goo.ne.jp/kasu3kou1/e/5495b1a64479239b998f0bdfdf81d000
古典の名場面を教えるチャンスというのは、日本語教育の方ではなかなかないのですが、千載一遇とばかりやってみました。おかげさまで、みんなで楽しく学ぶことができ、こちらの漫画にとても感謝しています。ありがとうございました。また、何かコラボできるといいなと思っております。よろしくお願いします。
Posted by とまとん at 2011年04月16日 10:55
とまとん様

ブログ拝見しました。
私のブログを紹介してくださってありがとうございます。

私も日本語教育に片足を置いている身ですが、確かに外国人の方に古典を紹介する機会ってないですね〜。(私は自分の描いた漫画を見せたりしますけど)

楽しいレッスンの雰囲気がブログ記事から伝わってきました!

こちらは震災後外国人がいなくなって、日本語授業数も激減しているので、羨ましく読ませていただきました(^-^)

また何かあったらご利用ください!
Posted by 柴田 at 2011年04月16日 11:55
はじめまして。「塩尻」の画像を検索していてここにたどり着きました。
作品をいろいろと拝見し、すごいなぁと感嘆していました。
ですが、この「梓弓」では誤解に基づいて描かれていらっしゃるようで残念に思いました。
URLはアマゾンのページですが、黒澤弘光『心にグッと来る日本の古典』という本です。
ご参考までに。
Posted by at 2011年10月05日 10:36
彩様

貴重なコメントをありがとうございます。

勉強不足で、解釈が間違っているところは多々あるかと思います。
このようなご指摘は大変有り難く、今後の参考にさせていただきます。

ご紹介いただいた本はまだ読んでいませんが、いずれ是非読んでみたいと思います!
Posted by 柴田 at 2011年10月06日 14:49
ふたたびコメントさせていただきます。煙たく思われていらっしゃるかもしれませんが、どうぞご容赦を。
前回ご紹介した本の内容を簡単にご説明いたします。

「『夫が行方不明になって3年経ったら、子どものない女は再婚していーよ』という法律」については、これはこの「梓弓」の場合には適用されません。
というのもその法律では、今に喩えるなら「電話もつながらないようなアフリカの奥地に行って、3年間音信不通の場合」という条件がついています。
「梓弓」の「男」は今で言えば「東京に出稼ぎに行った」わけですので、その条件が当てはまりません。
また、ここの「男」「女」については貴族ではない一般庶民を想定しています。
当時の庶民の食生活や寿命等を考えたとき、3年という数字の持つ意味が大きくなります。
「女」は「男」と14歳で結婚したとします。
「男」の歌から、数年は結婚生活があったと考えられるので、3年後「女」が17歳のときに「男」は「宮づかへ」に行ったとします。
それから3年、「女」は20歳になっています。
食べ物も化粧も、出産での危険度も、今とは大違いの時代です。
これ以上待っても「男」が帰ってこなかったときを考えると、今は一人言い寄ってくれる人がいるけれどこの人を逃したらどうなるかわからない、そうなれば夫も子どももなく一人で過ごしていかなければならない、というのが「女」の心情でしょう。
「女」にとっては、色々なことが限界になっています。
そして言い寄ってきた男に許した、ということです。

また、その日のことにしても、「女」としては千々に思い乱れながら過ごしていたと考えられます。
できれば夜にならないでほしいと思っていたところ、扉を叩く者がいる。
読者はこれが「男」であると知っていますが、「女」は約束した「後から言い寄ってきた者」であると思っています。
だから、すぐには扉を開けないんです。
そうするうちに「男」の声を聞き、「女」はそこで初めて夫が帰ってきたと知ります。
そこで、やっとのことで歌を詠み出したわけなんです。

この物語は、「女」のそういう心情を考えなければ、まったく違う読み方をしてしまいます。
そんな危険性をはらんだ物語だと、先日ご紹介した本から学びました。

こちらのサイトでは、まだ『伊勢物語』関連しか拝見しておりませんが、本では『伊勢物語』のほかに『源氏物語』等についても黒澤先生の講義が載っております。
是非ご一読されることを改めてお勧めいたします。
Posted by 彩 at 2011年10月28日 14:38
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