2007年07月23日

あねはの松

伊勢物語、第十四段です。
〈本文〉
 むかし、男、陸奥(みち)の国にすずろに行きいたりにけり。そこなる女、京の人は珍らかにや覚けむ、せちに思へる心なむありける。さて、かの女、

 なかなかに恋に死なずは桑子(くはこ)にぞなるべかりける玉の緒(を)ばかり

 歌さへぞひなびたりける。さすがにあはれとや思ひけむ、いきて寝にけり。夜ふかくいでにければ、女、

 夜も明けばきつにはめなでくたかけのまだきに鳴きてせなをやりつる

といへるに、男、京へなむまかるとて、

 栗原のあねはの松の人ならば都のつとにいざといはましを

といへりければ、よろこぼひて、おもひけらしとぞいひをりける。

aneha.jpg

〈juppo〉夏休みスペシャル第二段は色恋沙汰満開の伊勢物語です。昨日は「うつくしきことかぎりなし」な、かぐや姫を描いていたのに、今日の話はヒドいです。描きながら「こんなの載せていいのか?」と不安になってきたほどです。

 行きずりの恋であるのもヒドイのですが、あまりにも田舎の女をバカにしてるテイストですよね。私もそういうテイストで描いちゃった訳ですけど。今だったら在原業平(と、されている人)の謝罪・失職必至です。
 そういう点を大目に見れば(見られれば)、解釈上はとても面白い話なんです。まず「あねはの松」というのは宮城県栗原郡(現在は栗原市)の歌枕です。歌枕というのは、ある特定の地名を連想させる和歌の技法です。陸奥の国は今の東北地方です。
桑子は蚕のことなんですけど、蚕って夫婦仲が良い象徴なんですね。「玉の緒」は玉を繋ぐ紐を表していて、「短い」→「命が短い」という意味で使われています。

 そして、「きつにはめなでくたかけの」の「きつ」には「水桶」と「狐」、「はめ」には「落とす」と「食べさせる」、それぞれニ通りの解釈があり、漫画に描いたように「水桶に放り込む」という訳の他に「狐に食わせてやる」という訳もあるんですって。「くたかけ」はニワトリを罵っていう言葉で、いずれにせよ「バカなニワトリを殺してやる」ってことなんですけどね。

 田舎の女だから教養がない、教養がないから思い込みが激しい、っていう設定なんですかね。ヤルだけヤッといてさっさと帰るだけでなく景勝地の松を見て「あの松が女だったら」なんて妄想してる男もどうかと思いますけどね。まったく、男ってヤツは・・!というお話でした。
posted by juppo at 21:07| Comment(2) | TrackBack(0) | 伊勢物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんは
お久しぶりです。
あれから木曽の最後の続きを書いていただいていたとは知りませんでした。本当にありがとうございます。

ところでこの絵の女性イモトさんに似ていませんか・・・笑。
意識して書きましたか?少し気になったのでお聞きします。
Posted by スターゲイト at 2010年03月19日 22:22
スターゲイト様

お久しぶりです!

マニアな質問をありがとうございます(^^)
この作品を描いたのはもう3年くらい前で、その頃私はイモトさんを知りませんでした(^o^;
だから意識はしていないですよ。
でも、そう言われてみると似てるかもしれませんね〜。
素朴なキャラという点で共通しちゃったのでしょうか…?
Posted by 柴田 at 2010年03月19日 22:33
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