お待たせしました。完結編です。
〈本文〉
なほ行き行きて、武蔵国(むさしのくに)と下総国(しもふさのくに)との中に、いと大きなる川あり。それをすみだ川といふ。その川のほとりに群れいて思いやれば、限りなく遠くも来にけるかなとわび合へるに、渡し守(もり)、「はや舟に乗れ、日も暮れぬ。」といふに、乗りて渡らむとするに、みな人ものわびしくて、京に思ふ人なきにしもあらず。さるをりしも、白き鳥の嘴(はし)と脚と赤き、鴫(しぎ)の大きさなる、水の上に遊びつつ魚(いお)を食ふ。京には見えぬ鳥なれば、みな人見知らず。渡し守に問ひければ、「これなむ都鳥。」といふを聞きて、
名にし負はばいざ言問はむ都鳥わが思ふ人はありやなしやと
と詠めりえければ、舟こぞりて泣きにけり。
〈juppo〉ついに一行は東京までやって来ました。武蔵の国が今の東京、下総の国は千葉県の上の方です。東京が終点なのかと思っていたら、隅田川を越えて更に北上(この人たちにとっては、下り)するんでしょうか。とりあえず、この段はこれで終わりです。
都鳥というのは「ゆりかもめ」のことなんです。そうそう、お台場へ行くあの鉄道のことです。いえ、ここでは鳥の名前ですけどね。「白き鳥の」の「の」は毎度おなじみ「同格の『の』」ってヤツです。
「都鳥」という名前なので、船頭は「都の人なら当然知ってるでしょ。」というノリで答えています。でも都にはいない鳥なんですね。でも「都」が名前についてるくらいだから、都の事を知っているのではないか?との思いを込めて詠んだのが「名にし負はば・・」の歌です。
それにしても、よく泣きますよねーこの人たち。一度旅立ったら、そう簡単には戻れないし連絡も取れないのですから、感傷的になるのも無理はないのかも知れませんが。そうしてことあるごとに歌に詠む。繊細です。
2007年10月13日
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