〈本文〉
今は昔、小野篁(おののたかむら)といふ人おはしけり。嵯峨(さが)の帝(みかど)の御時(おほんとき)に、内裏(だいり)に札を立てたりけるに、「無悪善」と書きたりけり。帝、篁に、
「読め。」と仰(おほ)せられたりければ、
「読みは読み候ひなん。されどおそれにて候へば、え申し候はじ。」と奏しければ、
「ただ申せ。」とたびたび仰せられければ、
「さがなくてよからんと申して候ふぞ。されば君を呪ひまいらせて候ふなり。」と申しければ、
「おのれはなちては、たれか書かん。」と仰せられければ、
「さればこそ、申し候はじとは申して候ひつれ。」と申すに、帝、
「さて何も書きたらんものは、読みてんや。」と仰せられければ、
「何にても読み候ひなん。」と申しければ、片仮名の子(ね)文字を、十二書かせてたまひて、
「読め。」と仰せられければ、
「ねこの子のこねこ、ししの子のこじし。」と読みたりければ、帝ほほえませたまひて、ことなくてやみにけり。

「子ってカタカナじゃないじゃん!」と思われたあなた、そうなんです。皆さんご存じのように、ひらがな・カタカナは漢字をもとに作られた文字で、片仮名は漢文の送り仮名などに使うために作られました。今私たちが使っている五十音のひらがな・カタカナは、明治時代に整理されたものなのですが、その中に「子」から出来た文字は入っていません。整理されるまでには、他にもいろいろな漢字が仮名として使われていて、「子」もそのひとつなんです。これを「変体仮名」といいます。変態ではありません。
「子」は「こ・ね・し」と読むので、十二文字で「猫の子の子猫、獅子の子の子獅子」と読めるという、ナゾナゾです。
ちょっと待て、それって十二文字じゃないじゃん!と思われたあなた、計算が早いですね。十二文字に「の」は含まれていないんです。小野篁を「おののたかむら」と読むように、「の」は読む時に入ってくる音なんですね。
その小野篁と言う人は、平安時代の漢学者で歌人で書家だった人だそうです。何でも良く分かってしまうと、あらぬ疑いをかけられてしまう、というお話でした。
あと1日で「子年」がやって来ます。このブログの更新も、今年はこれで最後です。
始めてからまだ1年経っていませんが、とりあえず今日まで続けてこられて、ほっとしています。
立ち寄ってくれた皆さん、ブックマークしてくださった方、ありがとうございました。来年も少しでも皆さんのお役にたてるよう、頑張って続けます。
来るべき子年が、皆さんにとって素晴らしい年でありますように。
それでは、良いお年を。
ありがとうございます!
コメントありがとうございます!
テスト頑張ってくださいね〜(^O^)
『宇治拾遺物語』も素敵ですね!
リクエストがあるのですが、「袴垂、保昌にあふこと」(『宇治拾遺物語』巻2の10)も作っていただけないでしょうか? 袴垂という盗人が保昌に出会う話なのですが…
ご検討いただけると嬉しいです
リクエストありがとうございます。前向きに検討させていただきます!
『宇治拾遺物語』は読みやすく楽しい話が多いですよね。紹介する機会が増えるのは嬉しいです。お待ちくださいね〜。