前回の続きです。リクエストにお応えします。
〈本文〉
あはれなることは、おりおはしましける夜は、藤壺の上の御局(みつぼね)の小戸(こど)より出でさせ給ひけるに、有明(ありあけ)の月のいみじくあかかりければ、「顕証(けんしょう)にこそありけれ。いかがすべからむ」と仰せられけるを、「さりとて、とまらせ給ふべきやう侍らず。神璽(しんじ)・宝剣わたり給ひぬるには」と、粟田殿(あはたどの)のさはがし申し給ひけるは、まだ帝(みかど)出でさせおはしまさざりけるさきに、手づから取りて、春宮(とうぐう)の御方にわたし奉り給ひてければ、帰り入らせ給はむことはあるまじくおぼして、しか申させ給ひけるとぞ。さやけき影をまばゆくおぼしめしつるほどに、月の顔にむら雲のかかりて、少し暗がり行きければ、「わが出家(すけ)は成就するなりけり」とおぼされて、歩み出でさせ給ふほどに、弘徽殿(こきでん)の御文(おんふみ)の日ごろ破(や)り残して御目もえ放たず御覧じけるをおぼし出でて、「しばし」とて、取りに入らせおはしまししかし。粟田殿の、「いかにおぼしめしならせおはしましぬるぞ。ただ今過ぎば、おのづからさはりも出でまうで来(き)なむ」と、そら泣きし給ひけるは。
〈juppo〉いよいよ出家なさる花山天皇です。
ただ出家した晩の様子を話しているだけなんですけど、そこに渦巻く陰謀について詳しく知らないと、内容が把握出来ないようになっていて、それで複雑なんですね。
花山帝は19歳で出家しましたが、その若さで帝の位を下りて仏門に入ったのは、仏教を盲信していたからだけではない様です。
帝の脇でじたばたしている粟田殿という人物は、藤原道長の兄の道兼で、彼らのお父さんの藤原兼家という人が、今回の事件の黒幕です。
花山天皇の次に位についたのは一条天皇です。その、一条天皇を産んだのが、兼家の娘なのです。
藤原家は天皇家を裏で操るのみならず、一族の血を引いた者を天皇家に入れることで、権力を確固たるものにしようとしているのですね。
神璽・宝剣は歴代の天皇に受け継がれるもので、それをさっさと移動させてしまって既成事実を作ろうとしていたり、ぐずぐずしている天皇をウソ泣きしてまで追い立てていたり、父の命令ですから道兼も必死な訳です。
帝がぐずぐずしているのは、やはり出家に戸惑いがあったからの様です。
それでも結局出家してしまうのは、大事な手紙をくれた弘徽殿の女御というのが、花山帝の奥さんの一人な訳ですが、この前年妊娠中に亡くなっているのだそうで、そうした悲しみを抱いていたから、とか、自分の前の代の天皇もやはり出家していて、政治に翻弄されるより気楽な暮らしができるらしいことを見ていたからだ、とか、いろいろ理由はあるようです。
やんごとなき御身分でいるのも、なかなか楽ではないようです。21世紀になっても、そのへんはあまり変わってないかも知れません。
さて、そろそろ受験シーズンですね。
受験生の皆さん、風邪などひかないように、あともう少しの間、全力で駆け抜けてくださいね〜!
2011年01月24日
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妊娠中 ガッチリinfo
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Tracked: 2011-02-04 10:32
ありがとうございます!!
描き直しました。よく考えず調べもせず、明るい月かぁ〜と思って描いていた10年前の私です。
こちらこそ、これからもどうぞよろしくお願いいたします!