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〈本文〉
昔、袴垂(はかまだれ)とていみじき盗人の大将軍ありけり。十月ばかりにきぬの用ありければ、衣(きぬ)すこしまうけんとて、さるべき所々うかがひありきケルに、夜中ばかりに、人みなしづまりはててのち、月の朧(おぼろ)なるに、きぬあまたきたりけるぬしの、指貫(さしぬき)のそばはさみて、きぬの狩衣(かりぎぬ)めきたるきて、ただひとり笛吹きて、ゆきもやらず、ねりゆけば、「あはれ、これこそ、我にきぬえさせんとて、出でたる人なめれ」と思ひて、走りかかりて衣をはがんと思ふに、あやしく物のおそろしく覚えければ、そひて二、三町ばかりいけども、我に人こそ付きたれと思ひたるけしきもなし。いよいよ笛を吹きていけば、心みんと思ひて、足をたかくして走りよりたるに、笛を吹きながら見かへりたる気しき、取りかかるべくもおぼえざりければ走りのきぬ。かやうにあまたたび、とざまかうざまにするに、露ばかりもさわぎたるけしきなし。「稀有(けう)の人かな」と思ひて、十餘(よ)町ばかりぐして行く。「さりとてあらんやは」と思ひて、刀をぬきて

〈juppo〉久しぶりに宇治拾遺物語です。今回はネットでテキストを探すことなく、手元にあった角川文庫ソフィア『宇治拾遺物語』を参考にしました。
これです。訳は載っていませんが、なんとなくで読めます。今回は漫画にするのでいろいろ調べて訳しましたが。
袴垂という盗賊は、「袴垂保輔」とされることもあるそうですが、文庫の注釈には「別人」だとあります。保輔はここに登場する保昌の弟だそうです。保昌はまだ名乗られてないですね。でもタイトルにあるので、当然この笛を吹いてる人が保昌ですよね。
「指貫のそば」を「指貫の股立」と訳してありますが、「股立って何さ」と思いながら訳してました。袴に詳しい人なら現代でも常識な言葉なのかもしれません。袴の腰の、脇のすき間が空いた部分のことなんですね。そこを帯に挟んで裾を上げているということらしいです。なぜそんなことをしているのかは、ナゾです。多分歩きやすくするためでしょう。夜道なので。
夜道を笛を吹きながら歩いている理由もナゾなんですよね。風流な人はただ帰宅するのにも楽器を奏でながら歩いたんでしょうか。今でいう鼻歌くらいな感じで。
そうやってゆるゆる歩いているだけなのに、襲おうとしても襲えない、身にまとう物のおそろしさがあるというんですね。その、おいそれと手が出せない雰囲気が漫画に描ききれているとは到底思えないのですが、とてもそう思えないのに手が出せない恐ろしさ、なんてものがあるのだろうなと思ってください。
とは言え、このままただついて行くだけでは、と意を決した袴垂であります。続きます。
そんなわけでゴールデンウィークに突入しましたね。最近、平日が人並みに忙しいので、休みになったらあれこれしようと思いつつ、休みになると何にもしたくない症状に陥りそうです。夕方の「カーネーション」の再放送を見ているうちに、沸々とミシン踏みたい気持ちにもなってくるのですけど。