〈本文〉
いぼじり・かたつぶりなどを取り集めて、歌ひののしらせて聞かせ給ひて、我も声をうちあげて、「かたつぶりのつのの、あらそふやなぞ」といふことをうち誦(ずん)じ給ふ。わらはべの名は、例のやうなるはわびしとて、虫の名をなむつけ給ひたりける。けらを・ひきまろ・いなかたち・いなごまろ・あまひこなむなどつけて、召し使ひ給ひける。
かかること世に聞こえて、いとうたてあることをいふ中に、ある上達部(かんだちめ)のおほむこ、うちはやりてものおぢせず、愛敬(あいぎやう)づきたるあり。この姫君の事を聞きて、「さりともこれにはおぢなむ」とて、帯の端のいとをかしげなるに、蛇(くちなは)の形をいみじく似せて、動くべきさまなどしつけて、いろこだちたる懸(かけ)袋にいれて、結びつけたる文を見れば、
はふはふも君があたりにしたがはむ
長き心のかぎりなき身は
とあるを、

〈juppo〉まだまだ続くんですよ〜。これでまだ、半分くらいなんじゃないかなぁ、とぼんやりと。
5回目まで描いてきて気づいたことがあります。姫が集めている虫の中にカタツムリが入っている!
カタツムリも虫ですか?昆虫の定義は体が三分割されていて脚が6本、だと思いますが、もちろんこの時代にそんな分類はないですよね。そもそも姫は昆虫に限らず、毛虫などなどを集めているんですからそんな分類以前の問題でしたね。それで、カタツムリは一応、巻貝の仲間ですね。
とりあえず姫はカタツムリも集めています。カマキリとカタツムリに歌わせているのかと思われそうですが、歌うのは手下の子どもたちのようです。なぜそんな事をしているのか謎ですが、前回、毛虫からは故事や詩歌を思い出せない、というところで終わっていましたから、毛虫以外の虫をネタに、自分たちで歌ってしまおうという余興なんでしょうか。
今回は新たな人物も登場しています。ある上達部の「おほむこ」というのは、「大御子」の事かもしれないし、「大婿」かもしれないらしいです。婿でいいか、と娘婿にしておきました。
この人にも名前があるんですけど、次回以降に出てくるんです。後から名前が明らかになるのがこの物語のルールのようです。
姫も変わっていますがこの男もちょっと変わってる感じです。
世間の評判というのは悪いことほど伝わりやすいものですが、そんな評判を耳にしながらその姫の気を引こうとしています。えっ、婿なのに?
「これにはビビるだろ」と言わせておきながら、毎度のことながら作り物の蛇が全然誰もビビりそうにない可愛い造形になってしまってすみません。
蛇を「くちなは」というのは、「朽ち縄」に似ているからなんですって。いやー、縄なら朽ちててもいいですけど蛇はやだなー。
本当はどんな作り物の蛇なのか、皆さんも想像しながら次回をお待ちください。
今週後半は、京都に行ってきます。
無事に帰京したら来週の今ごろ、更新します!