〈本文〉
二日(ふつか)ばかりありて、赤衣(あかぎぬ)着たる男(をとこ)、畳を持て来て、「これ」と言ふ。「あれは誰(た)そ。あらはなり」など、ものはしたなく言へば、さし置きていぬ。「いづこよりぞ」と問はすれど、「まかりにけり」とて取り入れたれば、ことさらに御座(ござ)といふ畳のさまにて、高麗(かうらい)など、いときよらなり。心のうちにはさにやあらむなんど思へど、なほおぼつかなさに、人々出だして求むれど、失(う)せにけり。あやしがり言へど、使(つかひ)のなければ、言ふかひなくて、所たがへなどならば、おのづからまた言ひに来(き)なむ。宮の辺(へん)に案内(あない)しにまゐらまほしけれど、さもあらずは、うたてあべしと思へど、なほ誰(たれ)か、すずろにかかるわざはせむ。仰(おほ)せ言(ごと)ナメリト、いみじうをかし。

〈juppo〉前回、このお話を描く前に疫病ネタを探して諦めたことを打ち明けましたが、図らずもステイホームな清少納言さんということで、これもまたタイムリーなネタだったなということにさっき気づきました。こじつけと言わても致し方のないことですが。
ステイホーム中の清少納言さんがリモートで宮中とやりとりをしているんですよね。前回の紙の束に続いて今回は唐突に畳が届きます。お籠り生活には宅配が必須なのは千年前からの常識なんですね。
この届け人の男は「赤衣着たる」とあるので、実は着物を赤く塗ってあります。うっかり白黒でスキャンしてしまったので、赤いということは残念ながら文章からしか分かっていただけないのですけど。
紙の束には中宮様からのメッセージがついていたので送り主は明らかでしたが、今回は差出人も届けた人も、送り先さえよく分からない。今でもそうですが、届け間違いででもあったらその旨申し出があるだろうと判断するしかないのです。
「御座」はいわゆるゴザのことではなく、高貴な人が座る「御座所」の畳の上に重ねて敷く畳のことだそうです。
「高麗縁」は1話目から登場してるのに詳しく説明をしてませんでしたね。1話の中で絵にしてあるので、こんな縁だということが伝わっていればそれで良いんですけど、「白地の綾に雲形または菊花などの紋様を黒く織りだしたもの」だそうですよ。何か伝統的な畳のへりの一つなんですね。
その高麗縁も、そもそも清少納言さん自ら中宮様の前で言及したことなので、どう考えても中宮様からのお届けだけど、はっきりしないために考えを巡らせ続ける清少納言さんです。
あと1話残っていますが、果たして謎は解けるのでしょうか!?
ところで、壊れたテレビはまだ処分できずに車に載っています。テレビとの旅はいつまで続くのか。