〈本文〉
あたらしうかよふ婿(むこ)の君などの内へまゐるほどをも、心もとなう、所につけてわれはと思ひたる女房ののぞき、けしきばみ、奥の方(かた)にたたずまふを、前(まへ)にゐたる人は心得て笑ふを、「あなかま」とまねき制すれども、女(をんな)はた知らず顔(かほ)にて、おほどかにてゐたまへり。「ここなるもの取りはべらむ」など言ひ寄りて、走り打ちて逃ぐれば、ある限り笑ふ。男君(をとこぎみ)も、にくからずうちゑみたるに、ことにおどろかず顔すこし赤みてゐたるこそをかしけれ。また、かたみに打ちて、男をさへぞ打つめる。いかなる心にかあらむ、泣き腹立ちつつ、人をのろひ、まがまがしく言ふもあるこそをかしけれ。内わたりなどのやんごとなきも、今日(けふ)はみな乱れてかしこまりなし。

〈juppo〉2月というのに汗ばむほど暖かくなったと思ったら、また寒くなるようです。2月ですから。致し方ありません。
さて宮中は、雪で凍るほど寒かったはずの一月半ば、引き続きバトルフィールドと化しております。身分の上下も関係なく、終いには女も男も関係なく、ひたすら人のスキを狙っての打ち合いに興じているようですね。皆さん笑ってるから微笑ましい余興なのかと思ったら、やっぱり泣いたり怒ったりする人もいたようで、その後の人間関係に亀裂が生じなかったのかと心配になります。もともとお正月のめでたい行事のようなので、笑って済ますのがお約束だったのでしょうけれど。少なくとも清少納言さんの目には「をかしけれ」と映っているわけですし。
それで、打たれた女性がその後実際に子宝に恵まれたのか、ということも気になるところです。偶然にもその後男児を生むことになった人を叩いた実績のある人は当然「私が打ったからよ!!!」と鼻高々だったことでしょうね。
さらにもう1回あります。今月中にお届けすると思います。