〈本文〉
四月、祭のころ、いとをかし。上達部(かんだちめ)、殿上人(てんじやうびと)も、うへの衣(きぬ)の濃き薄きばかりのけぢめにて、白襲(しらがさね)とも同じさまに、涼しげにをかし。木々の木(こ)の葉まだいとしげうはあらで、わかやかに青みわたりたるに、霞(かすみ)も霧もへだてぬ空のけしきの、何(なに)となくすずろにをかしきに、すこし曇りたる夕つ方、夜など、しのびたる郭公(ほととぎす)の、遠く空音(そらね)かとおぼゆばかりたどたどしきを聞きつけたらむは、なに心地かせむ。

〈juppo〉訳本によっては、ここからの四月のお話まで、「正月一日は」で括っているものもあります。また、月ごとに分けて章立てしているものもあります。ここでは、三月四月でまとめました。
それでここからは四月です。
祭とは賀茂祭ですが、葵祭のことです。どちらにせよ、東京モンの私にはあまり馴染みがありません。賀茂祭が正式名称で、5月15日に行われるんですね。四月になっているのは、陰暦だからです。
私が知らないだけで、平安時代には祭といえば賀茂祭のことだったそうです。それだけ楽しみでもあったようで、こぞって着飾って車に乗って見物に行ったんですね、貴族の皆さんは。
「うへの衣」は袍(ほう)のことです。と言われても「ホウってなんだよ!」ですよね。偉い人が偉い式典で一番上に着る着物のことです。正装です。
「けぢめ」は今だと「けじめをつける」となりますが、区別とか違いという意味です。
清少納言さんは自然のものへの観察同様、ヒトのおしゃれにも鋭い視線を向けています。
「霞も霧もへだてぬ空」とは、霞や霧が空を「隔てない」ということで、「隠してない」ということですね。澄みきった空を表しているわけです。
ウグイスが練習で鳴くような鳴き方は耳にすることがありますが、ほととぎすもそんな鳴き方をするんですね。
あと2回続きますが、ネタバレするとここからお終いまで祭の話です。ことほど左様に、四月といえば「祭よ!」ということだったのでしょう。