〈本文〉
亭子(ていし)の帝、鳥飼院(とりかひのゐん)におはしましにけり。例のごと、御遊びあり。「このわたりのうかれめども、あまたまゐりてさぶらふなかに、声おもしろく、よしあるものは侍(はべ)りや」と問(と)はせ
たまふに、うかれめばらの申すやう、「大江(おほえ)の玉淵(たまぶち)がむすめと申す者、めづらしうまゐりて侍り」と申しければ、見せたまふに、さまかたちも清(きよ)げなりければ、あはれがりたまうて、うへに召(め)しあげたまふ。「そもそもまことか」など問はせたまふに、鳥飼といふ題を、みなみな人々によませたまひにけり。おほせたまふやう、「玉淵はいとらうありて、歌などよくよみき。この鳥飼といふ題をよくつかうまつりたらむにしたがひて、まことの子とはおもほさむ」とおほせたまひけり。

〈juppo〉誰と会っても「暑いですね〜」抜きでは会話が始まらない、そんな季節がやってまいりました。必ず来るし、必ず終わる季節ですからね、しばしの我慢ですね。
亭子の帝というのは、宇多天皇のことのようです。鳥飼院は、今の大阪あたりにあった離宮のことだそうです。「うかれめ」を遊女と訳しましたが、たいてい遊女と訳されるようですが、ここでの遊女は時代劇などに登場する春を売る遊女ではなく、歌ったり踊ったり、一緒に遊んでくれる女性たちのことで、まさに「遊ぶ女」なのですね。時代が下ると、売春もするようになったようですが。
「大江の玉淵」という人の名が、当たり前のように語られていますが、代々平安時代の貴族で、有名な人だったんですね。このお話を読む限り、宇多天皇とも親交があったようで、懐かしさからその娘らしき遊女にも親しみを覚えて招き寄せています。「さまかたちも清げ」だったせいでもありそうですけどね。
そういうわけで急遽、鳥飼院で鳥飼お題で歌を詠む会になりました。その歌は次回。全部で3回あります。
しばらくは暑い毎日ですが、皆さん熱中症には気をつけてください。私はすでに軽く。毎年そんな感じです。
【関連する記事】