〈本文〉
世の人の心まどはす事、色欲にはしかず。人の心はおろかなるものかな。匂(にほ)ひなどはかりのものなるに、しばらく衣裳(いしやう)に薫物(たきもの)すと知りながら、えならぬ匂ひには、必ず心ときめきするものなり。久米の仙人の、物洗ふ女の脛(はぎ)の白きを見て、通(つう)を失ひけんは、誠に手足・はだへなどのきよらに、肥えあぶらづきたらんは、外(ほか)の色ならねば、さもあらんかし。
〈juppo〉暑いの涼しいのに関係なく、そういえばこのお話の訳だけ1ヶ月くらい前に作っておいて、それがどこかにいってしまい、しばし探し回っていたのでした。
「徒然草」なんですけど、色っぽいお話です。教科書には載っていなさそうです。リクエストをいただいたわけでもありません。以前「あだし野の露」を描いた時にKSTプロダクションから送ってもらった詳しい本文の続きにあったので、ついでだから描こうかな、とコピーを捨てないで取っておいたのです。描いてみて初めて、セクシーな話だったと理解しました。
人の心は色香に迷わされる愚かさも持っているけれど、異性の姿に惹かれるのはそれが自然なものだからで当然のことなのだ、というお話です。それこそ種の本能ってものですよね。
後半に登場する「久米の仙人」は空を飛ぶ力も持っていたのに、飛行中にこういう事態になってその後神通力を失ったものの、その女性を妻として普通の暮らしをしたとかなんとか、伝説があるそうです。
教科書には載ってないでしょうけど、こんなお話も載っていたら勉強も楽しいですよね、きっと。
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