そうです、枕草子です。
〈本文〉
大蔵卿ばかり耳とき人はなし。まことに、蚊のまつげの落つるをも聞きつけたまひつべうこそありしか。
職(しき)の御曹司(みぞうし)の西面(おもて)に住みしころ、大殿(おおとの)の新中将宿直(とのい)にて、ものなど言ひしに、そばにある人の、「この中将に、扇の絵のこと言へ。」とささめけば、「いま、かの君の立ちたまひなむにを。」と、いとみそかに言ひ入るるを、その人だにえ聞きつけで、「なにとか、なにとか。」と耳をかたぶけ来るに、遠くゐて、「にくし。さのたまはば、けふは立たじ。」とのたまひしこそ、いかで聞きつけたまふらむとあさましかりしか。
〈juppo〉今回はリクエストじゃありません。知人が「枕草子」にこんな話がある、と教えてくれたのを、いただきました。
短くてオチのある話ですね。このまま現代のコマ漫画として雑誌に載っててもおかしくないような。
大蔵卿の本名は藤原正光です。藤原兼通の六男だそうです。偉い人らしいですが、「枕草子」にはよくこういう偉い人を影で笑うようなエピソードが出てきますよね。平安時代の宮中では、ネタになる人材に事欠かなかったんですね。
「耳とき人」の「とき」は「とし」で「早い」という意味ですが、耳が早いと言ってしまうと情報収集力に長けている人みたいになってしまいます。というより純粋に聴力に優れている人のようです。
何しろ蚊のまつげが落ちる音が聞こえる・・・というのは大げさな比喩のようですけど、そばにいても聞こえないささやき声が聞こえるというのは相当です。
その、聞こえてしまった話の内容は何かというと、そばにいる人が清少納言さんにささやいた「扇の絵のこと」の話を、大蔵卿が帰っていなくなってから、中将に話すことにしたい、ということです。
その「扇の絵のこと」が一体何のことなのか、ここでは不明なんです。清少納言さんて人は何かと話題が豊富ですから、数ある持ちネタのひとつなんでしょう。
それを大蔵卿がいなくなってから話したいのは何故なのか、も、ここでは不明です。不明ですけど、こいういうシチュエーションてありますよね。「その話は〇〇さんがいない時に!」てこと。
〇〇さんにそれを聞かれてしまうと最悪ですから、皆さんもお気をつけください。
2022年05月04日
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もしお手すきでしたら、平家物語の「先帝身投」を漫画にしていただけないでしょうか?
平家物語のアニメの影響で、是非とも柴田さんが描く安徳帝をみたくなりました。よろしくお願いします!
長らくのご贔屓、まことにありがとうございます!
お得意様のリクエストをスルーできません。
しばしお待ちいただくことになると思いますが、「先帝身投」ですね。承知いたしました。
描く前から悲しくて泣きそうですが、頑張ります。