〈本文〉
樊噲曰、「大行不顧細謹、大礼不辞小譲。如今人方為刀俎、我為魚肉、何辞為。」於是遂去。乃令張良留謝。良問曰、「大王来何操。」曰、「我持白璧一双、欲献項王、玉斗一双、欲与亜父。会其怒、不敢献。公為我献之。」張良曰、「謹諾。」
〈書き下し文〉
樊噲曰はく、「大行(たいかう)は細謹(さいきん)を顧(かへり)みず、大礼(たいれい)は小譲(せうじやう)を辞せず。如今(じよこん)、人は方(まさ)に刀俎(たうそ)たり、我は魚肉たり、何ぞ辞するを為(な)さん。」と。是(ここ)に於いて遂(つひ)に去る。乃(すなは)ち張良をして留(とど)まり謝(しや)せしむ。良問ひて曰はく、「大王来(きた)るとき何をか操(と)れる。」と。曰はく、「我白璧(はくへき)一双(いつさう)を持(ぢ)し、項王に献(けん)ぜんと欲し、玉斗(ぎよくと)一双をば、亜父(あほ)に与へんと欲せしも、其(そ)の怒りに会ひて、敢へて献ぜず。公(こう)我が為に之(これ)を献ぜよ。」と。張良曰はく、「謹(つつし)みて諾(だく)す。」と。
〈juppo〉先日お墓参りに行った時に蚊取り線香を持参したところ、携帯用のケース(平たい丸い金属のあれ)が、帰る時に持てないほど熱くなっていました。蚊にはさされずに済みました。
さて、だいぶ前になってしまいましたが前回は、沛公さんが項王に「失礼します」と言わずに辞してしまったことを気にしていたところで終わったんでした。以前、ドイツ人に日本語を教えていた時にそのドイツ人の方が「『お先に失礼します』という日本語の意味がわからない。先に帰ることの何が失礼なのか。」と首をひねっていたことを思い出します。日本人の、残業の多さの原因の一つがわかったような気がしました。
ここでは樊噲さんがあっさり「挨拶なんて必要ない」と結論してくれています。ここ、反語になってます。
納得したのか沛公さんは去っていきますが、「去る」と言いつつまだ去らないんです。いつのまにか張良も外に出ていていろいろ引き継ぎが行われてますね。
「白璧」とは白い玉のことで、玉は宝石みたいな貴重な石のようです。「玉斗」は玉で作った酒のひしゃくだそうですが、画像検索するとこういう形のものがヒットするのでひしゃくの形にはしませんでした。それらを代わりに献上しといてね、よろしくと沛公さんはやっと去ります。どこへ?自分の軍へです。えーもう帰るの?と何か物足りない感じもしますけど、無傷で鴻門を去れたのは何よりです。ここに至るまでの沛公さんの活躍を詳しく知らないので、沛公さんは結局何もしていないと思わずにいられないのですが。
とにかく「鴻門の会」たる鴻門での会合は終了していますが、お話はもう少し続きます。あと3回。熱中症と戦いながら、続けます。