順調に第三回ですが、先は長いです。続きです。
〈本文〉
都遠くなるままに、あはれに心ぼそく思されて、
君が住む宿のこずゑをゆくゆくとかくるるまでもかへり見しはや
また、播磨国(はりまのくに)におはしましつきて、明石の駅(むまや)といふ所に御宿りせしめたまひて、駅の長(をさ)のいみじく思へるけしきを御覧じて、作らしめたまふ詩、いとかなし。
駅長莫驚時変改
一栄一落是春秋
駅長(えきちやう)驚クコトナカレ、時ノ変改(へんがい)
一栄一落(いつえいいつらく)是(こ)レ春秋(しゆんじう)
かくて筑紫におはしつきて、ものをあはれに心ぼそく思さるる夕(ゆふべ)、をちかたに所々(ところどころ)煙(けぶり)立つを御覧じて、
夕されば野にも山にも立つ煙なげきよりこそ燃えまさりけれ
また、雲の浮きてただよふを御覧じて、
山わかれ飛びゆく雲のかへり来るかげ見る時はなほ頼まれぬ
さりともと、世を思し召されけるなるべし。
〈juppo〉前回、山崎てところで出家した道真さんを描きましたが、その時にも書いたように出家したかどうかは不明なようなので、元の姿に戻ってもらいました。
ここからいよいよ都を追われる悲しさ寂しさ全開の道真さんになっていくのですが、筑紫まで一人旅をしているわけではないんですよ。朝廷の命令による移動ですからついて来る役人もいるし、前にも言いましたが小さい子どもたちは連れてってるんです。ただ少なくとも楽しい旅路ではなかったでしょうから、敢えてそうしたわけでもないですが、道真さんがトボトボ行くような絵になりました。
そんなことより駅長ですよね。駅と言ってももちろん鉄道の駅ではありません。「むまや」と読みますし。
昔は遠出には馬に乗りましたので、程よい距離ごとに馬を繋いで泊まる「駅」があったのですね。そこを管理している人です。その人がどんな風体だったかわからなかったので、面白いから駅長さんになってもらいました。フィクションですよ。念のため。
道真さんは何か思うたびに歌を詠んでいますが、漢詩も作っています。「詩」と言っているのは全て漢詩です。
折々詠んだ歌や詩は、のちにまとめられて現在まで残っているのですが、大臣をしていた頃に書いた文書なども残っているんですね。とにかくたくさん書く方だったようです。さすが学問の神。
1コマ目で詠んでいる歌の「君が住む」の「君」とは、道真と信頼で結ばれていた宇多法王のこと、という説と奥さんだとする説があるそうですが、ふり返りふり返り見ちゃうんだからやっぱり奥さんかな、と思いました。
どちらにせよ、そんな気持ちで旅立つなんて、寂しい道のりですね。駅長さんには励ますように事の道理を説いていた道真さんも、夕方になったり、ふと空を見たりすると、いろいろ思い出して切なくなってしまうのですね。単に寂しいだけでなく、納得できない我が身の上の不遇への嘆きも、そこにはあるわけですからねー。
2023年11月13日
この記事へのコメント
コメントを書く
この記事へのトラックバック