急にもの凄く寒いです。かつくしゃみが止まらないのはすでにスギ花粉の気配です。続きです。
〈本文〉
鐘の音を聞き召して、作らせたまへる詩ぞかし。
都府楼纔看瓦色
観音寺只聴鐘声
都府楼(とふろう)ハ纔(わづか)二瓦ノ色ヲ看ル
観音寺ハ只(ただ)鐘ノ声ヲ聴ク
これは、文集(もんじふ)の、白居易の「遺愛寺(ゐあいじ)ノ鐘ハ枕ヲ欹(そばだ)テテ聴キ、香炉峯(こうろほう)ノ雪ハ簾(すだれ)ヲ撥(かかげ)テ看ル」といふ詩に、まさざまに作らしめたまへりとこそ、昔の博士ども申しけれ。また、かの筑紫にて、九月九日菊の花を御覧じけるついでに、いまだ京におはしましし時、九月の今宵(こよひ)、内裏にて菊の宴ありしに、この大臣(おとど)の作らせたまひける詩を、帝かしこく感じたまひて、御衣(おんぞ)たまはりたまへりしを、筑紫に持て下らしめたまへりければ、御覧ずるに、いとどその折思(おぼ)し召し出でて、作らしめたまひける、
去年今夜侍清涼
秋思詩篇独断腸
恩賜御衣今在此
捧持毎日拝余香
去年ノ今夜(こよひ)ハ清涼(せいりやう)二侍リキ
秋思(しうし)ノ詩篇独(ひと)リ腸(はらわた)ヲ断(た)ツ
恩賜(おんし)ノ御衣(ぎよい)今此(ここ)二在(あ)リ
捧(ささ)ゲ持チテ毎日余香(よかう)ヲ拝シタテマツル
〈juppo〉さてさて、涙無くしては読めない展開になってきた道真さんの筑紫生活です。何を見てもため息な日々です。それでも有り余る才能が詩を作らせてしまい、その詩がいちいち素晴らしいと。
「白氏文集」は白居易の詩を集めたもので、白居易は中国の詩人です。またの名を白楽天。「香炉峰の雪」といえば「枕草子」でもネタにされていましたね。ここではその詩を意識していながら、オリジナルを超えてんじゃん!てな評価のようです。
九月九日は重陽の節句で、宮中では菊を見る宴を催していたんですね。ご褒美に着物をいただくというのも、他の作品で見ました。清涼殿は帝のお住まいです。いただいた着物の残り香は、何の香りでしょう。帝が炊いていた香の香りなんでしょうね。おそらく。
別れたり、亡くしたりしてもう会えない人の、衣服や何かの香りから思い出が止まらなくなっちゃうことって、ありますよね。良いことも悪いことも、嗅覚と記憶はかなり強く結びついているんですよね。
この境遇にあってこの詩作の才。伝説になるには充分ですが、さらに神になってしまうまで、もう少しです。以下次号。
2023年11月27日
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