〈本文〉
盗人寄(よ)り来て、車の簾(すだれ)を引き開けて見るに、裸にて史(さくわん)居たれば、盗人、「奇異(あさまし)」と思ひて、「此(こ)は何(いか)に」と問へば、史、「東(ひむがし)の大宮にて如此(かくのごとく)なりつる。君達(きむだち)寄来て、己(おのれ)が装束をば皆召(め)しつ」と笏(しやく)を取りて、吉(よ)き人に物申す様に畏(かしこ)まりて答へければ、盗人咲(わら)ひて棄(す)てて去(い)にけり。其(そ)の後(のち)、史音(こゑ)を挙げて牛飼童(うしかひわらは)を呼びければ、皆出(いで)来にけり。其(それ)よりなむ家に返(かへ)りにける。
然(さ)て妻(め)に此の由(よし)を語りければ、妻の云はく、「其の盗人にも増(まさ)りたりける心にて御(おはし)ける」と云ひて咲ける。実(まこと)にいと怖(おそろ)しき心なり。装束の皆解きて隠し置きて、然(し)か云はむと思ひける心ばせ、更に人の思ひよるべき事に非(あら)ず。
此の史は極(きは)めたる物云ひにてなむありければ、此(かく)も云ふなりけり、となむ語り伝へたるとや。
〈juppo〉盗人に襲われそうになった史の人、まんまと難を逃れた後編であります。身ぐるみ剥がされた後だから何も盗るものはないよ、という作戦なだけでなく、笏を持って、身分の高い人に話す口調で盗人に対応しているんです。
「君達」とは貴族の子弟などの若者らのことで、そういう人たちに襲われた、今来たあなた方もそういう身分の人ですよね、なニュアンスで対峙しています。皮肉に聞こえやしないかと思わされますが、盗人らは妙に納得したか拍子抜けしたかで、悪事を働くことなく去っていったようです。
史の人は襲われる予感があったのでしょうか。夜間にこの通りを進むと大抵そんな目に遭う、というのが常識だったのでしょうか。ともかく、作戦成功だったわけです。盗人は装束以外に目当てのものはなかったんでしょうか。牛車ごと、とか。
「心ばせ」とは、先を読む周到な心がけ、といった意味です。
ところで、今年の夏は本当に暑かったですね。暑すぎて何も出来なくてブログの更新を怠っていたわけでは・・・なくもないですが、この夏、取り掛かっていたことがあり、近日中に新しいお知らせをいたします。
それと、この夏から日本語学校で週イチ先生をしています。
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