〈本文〉
なでふことなき人の、笑(え)がちにてものいたう言ひたる。火桶(ひおけ)の火、炭櫃(すびつ)などに、手の裏うち返し、おしのべなどしてあぶりをる者。いつか若やかなる人などさはしたりし。老いばみたる者こそ、火桶の端(はた)に足をさへもたげて、もの言ふままにおしすりなどはすらめ。さやうの者は、人のもとに来て、いむとする所を、まづ扇してこなたかなたあふぎ散らして、塵(ちり)掃き捨て、いも定まらずひろめきて、狩衣(かりぎぬ)の前巻き入れてもいるべし。かかることは、いふかひなき者のきはにやと思へど、少しよろしき者の式部の大夫(たゆう)などいひしがせしなり。
ものうらやみし、身のうへ嘆き、人のうへ言ひ、つゆ塵のこともゆかしがり、聞きまほしうして、言ひ知らせぬをば怨(えん)じ、そしり、また、わづかに聞き得たることをば、われもとより知りたることのやうに、こと人に語りしらぶるも、いとにくし。

〈juppo〉ムカつく話はまだまだ続きます。そんなに何もかにもカチンと来なさんな、と言ってあげたい程ですが、まったく、浜の真砂は尽きるとも、世に「ムカつき」の種は尽きまじ、なのであります。
人の立ち居振る舞いを見てムカつく。些細なことですけど、実際こういうことに我慢出来ない思いをすることは現代でもいくらでもありますね。
自分の座るところだけ塵を掃いて座る。座っても落ち着かなくて服装にも無頓着。(狩衣とは狩りのための衣服が普段着になったもので、前に垂れる布はエプロンのように広げて座るのが作法だったのだそうです。)
あー、そういうおっさんて、いるよなぁ〜、と21世紀になっても同調出来てしまうのが凄いです。おっさんの進化は平安時代止まりなのでしょうか。
式部大夫というのは個人名ではなく、役職名です。要するに身分のそこそこ高い人を指しています。
有名な古典の作品だからどんだけ格調高い世界が展開しているのやら、と思って読むと、実はこんな下世話な内容だったというのが面白いですよね。
ところで、私事で恐縮ですが今日は私の誕生日でした!誕生日の夜にひとりでブログの更新をしているのは世間的に見てどうなのか分かりませんが、私としては、この程度でも、この上ない幸せな誕生日だったことをお伝えしておきます。