2019年07月15日

虫愛づる姫君K

長らくお付き合いをいただきました「虫愛づる姫君」もついに最終回です。名残惜しい気持ちです。
〈本文〉
取りて、「あないみじ、むまのすけのしわざにこそあめれ。心憂げなるむしをしも興じ給へる御顔(おんかほ)を見給ひつらむよ」とて、さまざま聞こゆれば、いらへ給ふ事は、「思ひとけば、ものなむはづかしからぬ。人は夢幻(まぼろし)のやうなる世に、誰かとまりて、悪しき事をも見、よきをも見思ふべき」とのたまへば、いふかひなくて、若き人々、おのがじし心憂がりあへり。この人々、「返事(かへりごと)やはある」とて、しばし立ち給へれど、わらはべをもみな呼び入れて、「心憂し」といひあへり。ある人々は心づきたるもあるべし。さすがにいとほしとて、
 人に似ぬ心のうちは かはむしの
  名を問ひてこそ いはまほしけれ
むまのすけ、
 かはむしに まぎるるまゆの毛の末に
  あたるばかりの人はなきかな
といひて、笑ひて返りぬめり。二の巻にあるべし。
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〈juppo〉終わってみると結局何の話だったのかなぁ、と思うこともままある古文の世界です。
結局右馬の助は姫に会わずに帰るし、姫の虫好きはそれからどうなったのかもわかりません。最後に「二の巻にあるべし」とあるのは、この後の物語は次の巻にあるんでしょうね!お楽しみに!!なノリで終わっているわけですが、ノリだけで本当に次の巻があるのではないんだそうです。「ぜってぇ見てくれよな!」で関心を集めて終わる、現代の連続ものの手法がこの時代から確立されていたんですねー。連続じゃないのに!

 そして結局最後まで名前のなかったこの姫、「モデルがいたんですね」とツイ友さんが教えてくれて「えっ、そうなんですか?」と言ったらwikiにそうあると。私も描き始める前に見ていたはずなのに、忘れていました。平安時代に、趣味に秀でた藤原宗補という太政大臣がいて、蜂を可愛がって飼っていたと。その大臣と、娘がモデル、と言われているようです。「虫愛づる姫君」じゃなく「蜂愛づる大臣」ですね。着想を得たとしても、面白く脚色してあるなぁ、と思います。

 「風の谷のナウシカ」も、このお話にヒントを得たとwikiにはありますが、この姫の方が断然強烈なキャラで、私は好きです。世界を救うことなど考えてもいないところも含めて。
 強烈すぎて、時々何を言っているのかわからないのですが、今回の「人は夢幻・・・」のセリフも、一度読んだだけでは理解できない哲学的なセリフですよね。要するに「短い人生の間に、何がいいとか悪いとか、判断できる人なんていないでしょうよ!」てことだと思います。だから人に「恥ずかしいからやめなさい」と言われても全然聞く気はない、ということなんですね。2コマ目で大夫がいろいろ話しているのは、そういうことだったようです。達観してますよねー、姫。

 我が道をゆく姫はその主義を改めることもなく、右馬の助は第三者が書いてくれたとは知らずに返事をもらってウキウキで帰る、ある意味ハッピーエンドですね。八方丸く収まってますからねー。姫の父や侍女たちは「心憂」な日々がまた続いていくとしても、現状維持であって悪化ではないのですから、多くを望んではいけませんね。

 ではまた、できれば近いうちに。他のお話で。
posted by juppo at 20:47| Comment(0) | 堤中納言物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年07月02日

虫愛づる姫君I

テレビのリモコンが壊れました。そうこうするうちに第10回です。
〈本文〉
 わらはの立てる、あやしと見て、「かの立蔀(たてじとみ)のもとにそひて、きよげなる男の、さすがに姿つきあやしげなるこそのぞき立てれ」といへば、このたいふの君といふ、「あないみじ。御前(おまへ)には、例の、虫興じ給ふとて、あらはにやおはすらむ。告げたてまつらむ」とて、参れば、例の簾(すだれ)の外(と)におはして、かはむしののしりてはらひ落とさせ給ふ。いと恐ろしければ、近くはよらで、「入らせ給へ。あらはなり」と聞こえさすれば、これを制せむと思ひて言ふとおぼえて、「それさはれ、ものはづかしからず」とのたまへば、「あな心憂(こころう)。そらごととおぼしめすか。その立蔀のつらに、いとはづかしげなる人侍るなるを。奥にて御覧ぜよ」といへば、「けらを、かしこにいて見て来(こ)」とのたまへば、立ち走りていきて、「まことに侍るなりけり」と申せば、立ち走り、かはむしは袖にひろひ入れて走り入り給ひぬ。
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〈juppo〉物語はとっちらかり放題な感じですが、終わりが見えて来ました。今回を入れてあと3回です。夏休みが始まるころまでには完結しそうです。あ、テレビのリモコンはネットで中古品を買って快適な生活を取り戻しました。チャンネルや音量を変えるためだけにテレビ本体まで往復する生活を数日送りました。
 
 巧みな変装でまんまと姫を覗き見していた右馬の助、あっさり子供に「男」と見破られています。王様が裸なことを見破ったのも子供でしたからね。子供の目に勝るものなし、なのですね。

 大夫の君は初登場ですよね。侍女の一人です。姫に知らせに行って、結局直接言えず伝言係を置いていますが、訳によっては大夫の君自ら姫に伝えています。私としてはどっちでもいいんですけど、いずれ描きなおす必要が生じた時に、一人描き足すより消す方が楽なので多めに描いておく方を選びました。

 ホントに人が見ていることがわかった姫の行動が迅速極まりないです。やっぱり人に見られるのには恥じらいがあるんでしょうか。毛虫を袖に入れるのを想像すると、ウッとなりそうですが。まさか見ている人に毛虫を横取りされるのを心配でもしたのでしょうか。

 残り2回です。また来週、お届けします。
posted by juppo at 23:57| Comment(0) | 堤中納言物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年06月26日

虫愛づる姫君H

いつもより更新が遅れ気味です。この間、遊んだり働いたりしておりました。続きです。
〈本文〉
化粧(けさう)したらばきよげにはありぬべし心うくもあるかなとおぼゆ。かくまでやつしたれど、みにくくなどはあらで、いと様異(さまこと)に、あざやかに気高く、はれやかなるさまぞあたらしき。練色(ねりいろ)の綾(あや)の袿(うちぎ)ひとかさね、はたおりめの小袿(こうちぎ)ひとかさね、白きはかまを好みて著(き)給へり。この虫をいとよく見むと思ひて、さし出(い)でて、「あなめでたや。日にあぶらるるが苦しければ、こなたざまに来るなりけり。これを一も落とさで追ひおこせよ。わらはべ」とのたまへば、突き落とせば、はらはらと落つ。白き扇(あふぎ)の、墨ぐろに真名(まんな)の手習(てならひ)したるをさし出でて、「これに拾ひ入れよ」とのたまへば、わらはべ取りいづる。みな君たちも、あさましう、「さいなんあるわたりに、こよなくもあるかな」と思ひてこの人を思ひて、いみじと君は見給ふ。
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〈juppo〉前回からずっと、多分次回も、引き続き姫を覗き続ける右馬の助と中将です。とにかくずっと観察してますよね。姫に対する感想が上がったり下がったりしていますが、素材はいいのにそれなりに装ってないのが惜しい、という結論のようですね。
 今回は姫の装束が詳しく説明されています。「練色」は薄い黄色味を帯びた白だそうです。「はたおりめ」はキリギリスのことだそうなんですけど、この時代のキリギリスは今のコオロギだそうです。・・・て、コオロギ模様の着物!?小袿は袿の上に著る着物だそうなので、この姫のアウターがコオロギ模様だということですよ。改めて、攻めた装いの姫ですね。白いハカマも、普通女子は着ないそうです。現代人から見ても、だんだん姫が本当に普通じゃないことがわかってきましたね〜。

 毛虫が木の幹を這っているのが、日に当たらない方向に移動しているのか!ということにいたく感心してその毛虫を拾い集めさせる姫の様子を見て、やはり右馬の助もびっくりです。一筋縄では行かなさそうな雰囲気を感じ取ったのでしょうか。
「さいなんあるわたり」は「才学ある家庭に」とする訳もあるようです。「こよなく」が「この上なく」という意味なので、「才学ある家庭にとんでもない娘がいたもんだ」なんて訳しても良かったのですが、驚きつつも姫の容姿から目を離さない右馬の助、てことにしときました。

 次回はもう10回ですね〜。できたらまた来週!


 ところで週末、群馬サファリーパークに行ってきました。
 ドアミラーにツノを擦り付けに来るエランド?
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 草食動物の匂いが残っているのかライオンも来ました。
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 羊は自分の毛にすりすり。
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posted by juppo at 05:50| Comment(2) | 堤中納言物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年06月18日

虫愛づる姫君G

前々回のミスは修正しました。続きです。
〈本文〉
あやしき女どものすがたをつくりて、按察使(あぜち)の大納言の出(い)で給へるほどにおはして、姫君の住み給ふ方の北面(きたおもて)の立蔀(たてじとみ)のもとにて見給へば、男(を)のわらはの異なる事なき、草木どもにたたずみありきて、さて言ふやうは、「この木にすべていくらもありくは。いとをかしきものかな」と、「これ御覧ぜよ」とて、簾(すだれ)をひきあげて、「いとおもしろきかはむしこそ候へ」といへば、さかしき声にて、「いと興ある事かな。こち持てこ」とのたまへば、「取りわかつべくも侍らず。ただここもとにて御覧ぜよ」といへば、あららかに踏みて出づ。簾を押し張りて、枝を見はり給ふを見れば、頭へきぬ着あげて、髪もさがりばきよげにはあれど、けづりつくろはねばにや、しぶげに見ゆるを、眉いと黒く、はなばなとあざやかに、涼しげに見えたり。口つきも愛敬(あいぎやう)づきてきよげなれど、歯ぐろめつけねば、いと世(よ)づかず。
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〈juppo〉今年に入ってLINEスタンプを作成していた間に、Macのお絵かきソフトを少し使いこなせるようになりました。おかげで前々回の原稿の修正もPC上で片付けられたんですけど、何度もやり直す必要が生じたりして、丸々描き直した方が早かったくらいでした。まだまだです。

 さて前回、中将と何やら相談することにした右馬の助でしたが、まさか女装する結論に達したとは。この人の行動にはいちいち意表を突かれますね。そしてこの時代、こうして隠れて女を覗き見するのがデフォだったんでしょうか。いつも誰か覗いてますよねぇ。
 女装という手段に走ったのには、前回作り物の蛇が相当巧みに作られていたのが一応伏線になっていて、女装もかなり巧みに装っているんだろう、ということらしいですよ。そんなことに才能を発揮しなくても・・という気もしないでもないです。
 
 姫の見た目については前にも説明があったので同じことのくり返しのようですが、右馬の助にとっては初めて見る姫の容姿なので改めて詳しく語られているんですね。男性の審美眼で見ているので、個人の感想的な説明になっています。
 「頭へきぬ着あげて」とあるので、着物を被ったような着方なんだと思いますけど、毛先が見えるほど髪が外に出ている状態でその着方に描くことができませんでした。ずっと着物を被っている姫を描き続けるのもどうかとも思ったり。
 「いと世づかず」には「色気がない」とする訳もありましたが、「世」と言っているので「世間並みでない」という意味の方を採用しました。

 次回も覗き続ける男たちにご期待ください。
posted by juppo at 03:56| Comment(0) | 堤中納言物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年06月11日

虫愛づる姫君F

前回の漫画にミスがあることに気づきました。お詫びは後ほど。続きです。
〈本文〉
大殿(おとど)太刀(たち)をひきさげてもてはしりたり。よく見給へば、いみじうよく似せて作り給へりければ、手に取り持ちて、「いみじう物よくしけるひとかな」とて、「かしこがりほめ給ふと聞きてしたるなめり。かへりごとをして、はやくやり給ひてよ」とて、渡り給ひぬ。
 人々、つくりたると聞きて、「けしからぬわざしける人かな」と言ひにくみ、「かへりごとせずはおぼつかなかりなむ」とて、いとこはくすくやかなる紙に書き給ふ。かなはまだ書き給はざりければ、片かんなに、
 ちぎりあらば よき極楽にゆきあはむ
  まつはれにくし 虫のすがたは
「福地(ふくち)の園(その)に」とある。むまのすけ見給ひて、「いとめづらかに、さま異(こと)なる文(ふみ)かな」と思ひて、「いかで見てしがな」と思ひて、中将といひ合はせて、
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〈juppo〉毎日よく雨が降りますが、そういえば梅雨入りしたんでしたね。梅雨にしては寒すぎて、季節がよくわからなくなりますね。
 
 蛇のおもちゃを仕掛けたアイツの名前が明らかになりました。「むまのすけ」とありますが、漫画にあるように「右馬の助」と書いて「うまのすけ」と読み、右馬寮の次官だそうです。右馬寮は「うめりょう」と読んだりもするようです。左馬寮もあって、馬寮というのがお役人や貴族の乗る馬を飼育したり管理したりする部署のことなんですね。
 うまのすけというと「マカロニほうれん荘」を思い出す私です。そのせいではないと思いますが、4コマ目の侍女たちの会話がなんだか「たまりませんわん!」になってしまっています。
 
 さて、ようやく名前もはっきりした右馬の助ですが、姫と手紙をやりとりして初めて「会いたいものだ」と思っているので、実はまだこの時点で姫に会っていません。すみません。お詫びはここです。前回、蛇入り袋を持ってきた人物がこの人だと思って描いていましたが、袋は届けられただけで本人持参ではなかったようです。近いうちに訂正原稿に差し替えたいので、お待ちください。訂正後にお読みになった方には何のことやら、な説明になっていると思います。

 父に促されて手紙の返事を書く姫、紙の選び方から字の書き方まで個性出まくりのようです。まず上等な薄い紙ではなく硬い紙に、平仮名で書くのが普通なのにカタカナで!という書き方なんですね。当時は平仮名を女文字と呼んで、年ごろの女性はそれで書くのが普通だったそうですが、何しろこの姫に「普通」は通用しないんでしたね。「普通だったら何よ」みたいに堂々とできるのはカッコいいですけどね。

 突然登場した「中将」は近衛府の次官か何かだそうで、要するに右馬の助の友人です。二人で相談するのは、もちろん姫へのアタック大作戦、てことですね。
 その辺は次回に乞うご期待。前回の訂正もそのころまでには。
posted by juppo at 02:27| Comment(0) | 堤中納言物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年06月03日

虫愛づる姫君E

京都に行ってきました。無事に戻ってきて更新できることを嬉しく思います。あ、ついでに誕生日の今日、更新できたのも嬉しいです。
〈本文〉
何心なく御前(おまへ)にもて参りて、「袋などあぐるだにあやしくおもたきかな」とて、ひきあけたれば、蛇(くちなは)首をもたげたり。人々心をまどはしてののしるに、君はいとのどかにて、「なもあみだ仏、なもあみだ仏」とて、「生前のおやならむ。な騒ぎそ」とうちわななかし、顔ほかやうに、「なまめかしきうちしも、けちえんに思はむぞ、あやしき心なるや」と、うちつぶやきて、近くひきよせ給ふも、さすがに恐ろしくおぼえ給ひければ、立ち処(どころ)居(ゐ)処、蝶(てふ)のごとく、せみ声にのたまふ声の、いみじうをかしければ、人々にげさわぎて笑ひいれば、しかじかと聞こゆ。「いとあさましくむくつけき事をも聞くわざかな。さるもののあるを見る見る、みな立ちぬらむことぞあやしきや」とて、
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〈juppo〉京都タワーには登りませんでしたが、京都タワーの地下にあるお風呂屋さんには行きました。清水寺は修復中でした。

 さて、前回仕込んだ蛇のおもちゃ入り袋は、やっぱりこういう使用法だったのですね。他に考えられませんね。面白いのは、それくらい何てことないのでは?というキャラの姫が、結構まんまと怖がってくれていることです。虫は大丈夫でも蛇はダメなんですね。
 その、怖がってあたふたする姫の様子が、「蝶のごとく」とか「せみ声」とか虫を使って言い表しているのも面白いですね。侍女たちはその様子が滑稽だと笑い転げていますが、急に女の子らしい一面を見せる姫が、ちょっと可愛いですよね。

 一連の出来事をしかじかと姫の父に伝えたのは誰だかよくわからないのですが、笑い転げている侍女たちが自分で伝えたわけではないようなので、他の誰かと同じキャラにならない絵にしてあります。ただの伝令役なのであまり気にしないでください。

 今回、全文を訳してから一話ずつ漫画にしてるんですけど、あまり時間をかけて描いているせいで、この続きがどんな話だったかすっかり忘れています。
 次回もお楽しみに、と言いながら私も楽しみです。
 また1週間後くらいに!
posted by juppo at 23:35| Comment(0) | 堤中納言物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年05月28日

虫愛づる姫君D

もう5回目ですよ。まだ続くんですかねー。
〈本文〉
いぼじり・かたつぶりなどを取り集めて、歌ひののしらせて聞かせ給ひて、我も声をうちあげて、「かたつぶりのつのの、あらそふやなぞ」といふことをうち誦(ずん)じ給ふ。わらはべの名は、例のやうなるはわびしとて、虫の名をなむつけ給ひたりける。けらを・ひきまろ・いなかたち・いなごまろ・あまひこなむなどつけて、召し使ひ給ひける。
 かかること世に聞こえて、いとうたてあることをいふ中に、ある上達部(かんだちめ)のおほむこ、うちはやりてものおぢせず、愛敬(あいぎやう)づきたるあり。この姫君の事を聞きて、「さりともこれにはおぢなむ」とて、帯の端のいとをかしげなるに、蛇(くちなは)の形をいみじく似せて、動くべきさまなどしつけて、いろこだちたる懸(かけ)袋にいれて、結びつけたる文を見れば、
 はふはふも君があたりにしたがはむ
  長き心のかぎりなき身は
とあるを、
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〈juppo〉まだまだ続くんですよ〜。これでまだ、半分くらいなんじゃないかなぁ、とぼんやりと。
5回目まで描いてきて気づいたことがあります。姫が集めている虫の中にカタツムリが入っている!
カタツムリも虫ですか?昆虫の定義は体が三分割されていて脚が6本、だと思いますが、もちろんこの時代にそんな分類はないですよね。そもそも姫は昆虫に限らず、毛虫などなどを集めているんですからそんな分類以前の問題でしたね。それで、カタツムリは一応、巻貝の仲間ですね。

 とりあえず姫はカタツムリも集めています。カマキリとカタツムリに歌わせているのかと思われそうですが、歌うのは手下の子どもたちのようです。なぜそんな事をしているのか謎ですが、前回、毛虫からは故事や詩歌を思い出せない、というところで終わっていましたから、毛虫以外の虫をネタに、自分たちで歌ってしまおうという余興なんでしょうか。
 
 今回は新たな人物も登場しています。ある上達部の「おほむこ」というのは、「大御子」の事かもしれないし、「大婿」かもしれないらしいです。婿でいいか、と娘婿にしておきました。
 この人にも名前があるんですけど、次回以降に出てくるんです。後から名前が明らかになるのがこの物語のルールのようです。
 姫も変わっていますがこの男もちょっと変わってる感じです。
 世間の評判というのは悪いことほど伝わりやすいものですが、そんな評判を耳にしながらその姫の気を引こうとしています。えっ、婿なのに?
  
 「これにはビビるだろ」と言わせておきながら、毎度のことながら作り物の蛇が全然誰もビビりそうにない可愛い造形になってしまってすみません。
 蛇を「くちなは」というのは、「朽ち縄」に似ているからなんですって。いやー、縄なら朽ちててもいいですけど蛇はやだなー。

 本当はどんな作り物の蛇なのか、皆さんも想像しながら次回をお待ちください。


 今週後半は、京都に行ってきます。
 無事に帰京したら来週の今ごろ、更新します!
posted by juppo at 01:39| Comment(0) | 堤中納言物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年05月21日

虫愛づる姫君C

順調に続きをお届けします。ヒマなので、ミシン踏んだりしていますよ。
〈本文〉
左近といふ人、
 冬くれば ころもたのもし寒くとも
  かはむし多く見ゆるあたりは
「衣(きぬ)など著(き)ずともあらなむかし」など言ひあへるを、とがとがしき女聞きて、「若人
たちは、何事言ひおはさうずるぞ。蝶めで給ふなる人も、もはらめでたうもおぼえず。けしからずこそおぼゆれ。さて、又(また)かはむしならべ、蝶と言ふ人ありなむやは。ただそれが蛻(もぬ)くるぞかし。そのほどを尋(たづ)ねてし給ふぞかし。それこそ心深けれ。蝶はとらふれば、手にきりつきて、いとむつかしきものぞかし。又蝶はとらふれば、わらは病(やみ)せさすなり。あなゆゆしともゆゆし」と言ふに、いとどにくさまさりて言ひあへり。
 この虫どもとらふるわらはべには、をかしきもの、かれがほしがるものを賜へば、さまざまに恐ろしげなる虫どもを取り集めて奉る。かはむしは毛などはをかしげなれど、おぼえねばさうざうしとて、
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〈juppo〉口さがない侍女たちの姫へのディスりは続きます。と、そこにまたお約束のようにうるさい上司が登場するんですねー。この人はどういう人なのか詳しく書かれてないですが、「とがとがし」がもともと大人のことを言ってたのが誤って伝わってる説もあるようなので上司にしときました。そこまで解釈しなくても、話してる内容から年上の人が説諭に現れた、という感じに読めますよね。
 しかしそういう場合、たしなめられた側にとっては火に油を注いだも同然で、結局侍女たちの陰口は止まる気配がないのでありました。

 そんなやり取りは知る由もなく、虫集めに無心の姫です。虫を可愛がる姫は小さい子どもにも親切ですね。ちゃんとご褒美をあげて手なずけています。
 最後のコマで毛虫を物足りないと言っているのは、毛虫から故事や詩歌など思い出されるものがないので何か物足りない、という意味だそうですが、「おぼえねば」の意味はよく分からないセリフみたいです。
 虫を愛でて観察するに飽き足らず、文学的な側面からも楽しもうとする姫、と押さえておけば良いでしょうか。とりあえず。
 続きます。また来週、と思っています。

 
 ミシン踏んでワンピース作りました。
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posted by juppo at 00:31| Comment(0) | 堤中納言物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年05月13日

虫愛づる姫君B

続きです。順調に更新が続いているのは、ヒマだからです。
〈本文〉
「きぬとて人々の着るも、蚕のまだ羽つかぬにし出だし、蝶(てふ)になりぬれば、いともそでにて、あだになりぬるをや」とのたまふに、いひ返すべうもあらずあさまし。さすがに親たちにもさし向かひ給はず、「鬼と女とは人に見えぬぞよき」と、案じ給へり。母屋(もや)の簾(すだれ)をすこしまきあげて、几帳(きちやう)いでたてて、かくさかしく言ひ出だし給ふなりけり。
 これを若き人々聞きて、「いみじくさかし給へど、ここちこそまどへ。この御あそびものよ。いかなる人、蝶めづる姫君につかまつらむ」とて、兵衛(ひやうゑ)といふ人、
 いかでわれ とかむかたなくいでしがな
  かはむしながら見るわざはせじ
と言へば、小太夫(こだいふ)といふ人、笑ひて、
 うらやまし 花や蝶やといふめれど
  かはむしくさき世をも見るかな
などいひて笑へば、「からしや。眉はしも、かはむしだちためり。さて歯ぐきは、皮のむけたるにやあらむ」とて、
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〈juppo〉昨年の今ごろは仕事に追われていたような気がしますが、今年は現在ほとんど失業状態の私です。そんな時は家の中を片付けたりブログを更新したり無理せず出来ることをしようかな、と呑気に構えていたら大してそれらもはかどらず、ぐうたら生活な有様です。
 
 まだまだこのお話は先が長いんです。これから虫愛づる姫君が何をして活躍するのかも楽しみですが、次々にいろんな人物が登場します。今回は、姫が可愛がっている虫に怖気づいて逃げていた侍女たちが、姫を好き放題ディスっている、という場面です。姫君に名前がないのに侍女たちには名前があるんですね。兵衛とか小太夫とかの名前は男の人みたいで、ざっと読んでると侍女のセリフということが解りにくいです。実際それらは男の人の呼び名で、彼女らの父親や夫がそういう役職についてるとかいうことからそう呼ばれてるようですよ。
 
 いつの時代も、女子が集まるとこんな会話で盛り上がるのだなーという感じですね。給湯室のOLみたい、という表現はもう差別の対象ですか。
 えげつない会話ですけど、誰かを褒めるより悪口を言う方が楽しいのも事実だったりします。陰口は良くないと思いつつ、キレイごとばかりは言えないです。ただ、面と向かってからかったり傷つけるのは、やめましょう。
 姫が親たちに面と向かって言わない「鬼と女とは人に見えぬぞよき」と言う言葉は、鬼はもちろん見たら怖いから見えないのがいい、女は人に見られることなく家にこもって、結婚もしないのがいい、という意味なんですね。結婚できないことを正当化する表現として、流行っ・・・たりはしないでしょうね。

 後半、兵衛と小太夫という人らは歌を詠んでるんですけど、自然な会話のようになってるのでそんなふうに描いています。「かはむしながら」の「ながら」には今の「ながら」と同じような意味もあるのですが、「毛虫ごと」と訳されてる例があったのでそうしました。「そのままの状態で」という意味があるんですけど、付帯状況の with みたいに捉えると一番しっくりくると思いましたがどうでしょう。

 ヒマなうちにどんどん更新します。でも毎日はしません。とりあえず、また来週!
posted by juppo at 23:24| Comment(0) | 堤中納言物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年05月07日

虫愛づる姫君A

令和最初の投稿です!「れいわ」はまだ「令和」とすぐに変換できませんね。続きです!
〈本文〉
いと白(しろ)らかに笑みつつ、この虫どもを朝夕(あしたゆふべ)に愛し給ふ。人々怖(お)ぢわびて逃ぐれば、その御方は、いとあやしくなむののしりける。かく怖づる人をば、「けしからず、はうぞくなり」とて、いと眉黒にてなむにらみ給ひけるに、いとどここちなむまどひける。
 親たちは、「いとあやしく、さまことにおはするこそ」とおぼしけれど、「おぼしとりたることぞあらむや。あやしきことぞと思ひて、聞こゆる事は、深くさいらへ給へば、いとぞかしこきや」と、これをもいとはづかしとおぼしたり。「さはありとも音聞きあやしや。人はみめをかしき事をこそこのむなれ。むくつけげなるかはむしを興ずなると、世の人の聞かむも、いとあやし」と聞こえ給へば、「くるしからず。よろづの事どもをたづねて、末(すゑ)をみればこそ事は故(ゆゑ)あれ。いとをさなこことなり。かはむしの蝶(てふ)とはなるなり。」そのさまのなり出(い)づるを、取り出でて見せ給へり。
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〈juppo〉超大型連休はいかがでしたか、皆さん。私は「香川照之の昆虫すごいぜ!6時間目 アリ」を見ながら、録画保存しようと思ってて失敗しました。このお話の姫とカマキリ先生は同じ人種ですよね。姫は気味の悪い虫を愛するだけでなく、ちゃんと観察して蝶の羽化の様子なんて見てるんですもんね。そういう生命の神秘みたいなことには確かに興味をそそられますが、地面に這いつくばってアリを探したり、手のひらに毛虫を横たわらせるのは、私は真っ平御免です。好きな人はどうぞ、と止めはしませんが。

 そんな姫に対して、どのご家庭でもそうであるように親たちは世間体を気にしていますね。そしてどのご家庭でも大抵そうであるように、激しく反論されるのが怖いので娘に何も言えないと。貴族の家庭の姫なのに、ここまで強い性格なのが面白いですよね。意志の強いだけの女性なら他の作品にも出てきますが、言動がやたら強い。激しい。
 今後の姫の行動にも要注目です。
posted by juppo at 01:17| Comment(3) | 堤中納言物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年04月30日

虫愛づる姫君@

平成最後の日、皆さんいかがお過ごしでしょうか。リクエストにお応えします。『堤中納言物語』です。
〈本文〉
 蝶 (てふ)めづる姫君の住み給ふかたはらに、按察使(あぜち)の大納言の御むすめ、心にくくなべてならぬさまに、親たちかしづき給ふ事かぎりなし。この姫君ののたまふ事、「人々の花蝶やとめづるこそ、はかなくあやしけれ。人はまことあり、本地(ほんち)たづねたるこそ、心ばへをかしけれ」とて、よろづの虫のおそろしげなるをとり集めて、これが成らむさまを見むとて、さまざまなる籠箱(こばこ)どもに入れさせ給ふ。中にも、「かはむしの心ふかきさましたるこそ心にくけれ」とて、明暮(あけくれ)は耳はさみをして、手のうらにそへふせてまボり給ふ。若き人々は、怖(お)ぢまどひければ、男(を)の童(わらは)の物怖ぢせず、いふかひなきを召しよせて、箱の虫どもを取らせ、名を問ひ聞き、いま新しきには、名をつけて興(きよう)じ給ふ。「人はすべてつくろふところあるはわろし」とて、眉(まゆ)さらに抜き給はず、歯ぐろめさらにうるさし、きたなし、とてつけ給はず、
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〈juppo〉平成最後の作品は、平成・令和元号またぎの長編です。長いです。最後まで描ききれるか自信がありません。いや、描きますけど。
 『堤中納言物語』といえば以前「貝合せ」てのを描きましたが、あれも長かったです。可愛い女の子たちのお話でした。今回は、可愛いというよりちょっと変わったお姫様のお話です。

 蝶より気味の悪い虫が好き、要するに這いずり系の虫だと思うんですけど、女の子らしい「可愛い」「キレイな」ものを好きになるなんてつまらない!んですって。そういう趣味は変なのかもしれませんが、姫には主義主張があって、外見より本質を探求することに意義があるのだ、てことを言いたいようです。真っ当なご意見です。ご意見はごもっともですが、やっぱり毛虫なんかはキモチ悪いですよね〜。
 外で、自然の中で偶然毛虫を見かけるのは良いですけど、突然家の中でムカデが這っているのに遭遇したりするのは避けたいものです。これからの季節、梅雨時にでもなると出てくるんですよ。ヤですね〜。

 物語の始まりに「蝶めづる姫君」が出ていますが、この姫は特に登場人物の一人というわけではありません。近所に住んでる誰かではなく、一般の姫のことを言ってるだけみたいです。こっちが普通でしょ?それなのに・・・という形で主役の姫の性格を際立たせてるんですね。
 一方、「耳はさみ」「眉」「歯ぐろめ」などについては、姫の外見が普通じゃないことを言っています。当時の女性は耳が隠れる髪型が普通、13、4歳で眉を抜いて描くのが普通、お歯黒をするのが普通、だったそうです。全部「やなこった」な姫なんですね。
 お歯黒って、結婚した女性がしてたのでは、と疑問に思われるかもしれませんが、そうなったのはこの後の時代のようですね。このころは皆してたんですねー。男の子がしてた時代もあったそうです。

 ギリギリ平成最終日に更新できてよかったです。続きは令和の時代になってから、なるべく早めにお届けしたいです。
 
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2012年10月27日

貝合せH

 長らくおつきあいいただきましたが、ついに、最終回でーす!
<本文>
ひき結びつけて、例の隨身(ずいじん)に持たせて、まだ曉に、門のわたりを佇(たたず)めば、昨日の子しも走る。うれしくて、
「かうとばかり聞えねよ。」
とて、懷(ふところ)よりをかしき小箱を取らせて、
「誰がともなくてさし置かせて来給へよ。さて今日のあり樣を見せ給へよ。さらば又々も。」
と言へば、いみじく喜びて、
「ただありし戸口、そこはまして今日は人もやあらじ。」
とて入りぬ。洲濱(すはま)、南の高欄(かうらん)に置かせてはひりぬ。やをら見通したまへば、ただ同じ程なる若き人ども、二十人ばかりに装束(さうぞ)きて、格子あげそそくめり。この洲濱を見つけて、
「あやしく。誰がしたるぞ、誰がしたるぞ。」
といへば、
「さるべき人こそなけれ。おもひ得つ。この昨日の仏のし給へるなめり。あはれにおはしけるかな。」
と、喜び騷ぐさまの、いと物狂ほしければ、いとをかしくて見て帰り給へりとや。
kai9.jpg本当に長かったですね〜。お話が長かったというより、私が全部描き終わるまでにかかった時間の長かったこと・・・。皆さん、お疲れ様でした。

 ここでお話は終わるんですけど、結局、こっちの姫が勝ったのかあちらの姫が勝ったのか、までは書かれていないんですね。少将も、延々子供の騒ぎを見届けながら、何かを得る訳でもなくひたすら眺め続けているところで終了です。

 昔の人は気が長かったというか、時間も今より確実にゆっくり流れているような気がします。

 「装束きて」で「さうぞきて」と読むのですね。これ、「さうぞく」という動詞なんですね。もとは名詞の「装束」から、装束を着ることを「装束く」って動詞にしちゃった、というのは何だか現代人が考えそうなことでもあるのが面白いですよね。「パニくる」みたいなね。

 と、言うわけで「貝合せ」は今回で終了です。『堤中納言物語』はこれからも他のエピソードをご紹介できるかもしれません。


 ところで、先日携帯が壊れました。修理に出したら、データが全部消えて帰って来るという事態になってしまいました。こんなことになったのは2回目です、ドコモ。
 修理に出した時点でデータは消えてしまう可能性が高いとは言われていたし、バックアップしておかない自分が悪いんですけど、新品に丸ごと取りかえただけなんじゃないの?と思える機種が戻ってきても、その携帯に愛着が持てないですよ。
 ・・・そんな訳で、ドコモとお別れすることにしました。近々、iPhoneに乗り替える予定です。

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2012年10月08日

貝合せG

お待たせしております。早や第8回です。
<本文>
打ち赤みたるまみ、いみじく美しげなり。
「いかにぞ、この組入(くみいれ)の上よりふと物の落ちたらば、実(まこと)の仏の御功徳とこそは思はめ。」
など言ひあへるは、をかし。とく帰りて、
「いかでこれを勝たせばや。」
と思へど、昼は出づべき方もなければ、すずろによく見暮して、夕霧に立ち隱れて紛れ出でてぞ、えならぬ洲濱(すはま)の三まがりなるを、うつぼに作りて、いみじき小箱をすゑて、いろいろの貝をいみじく多く入れて、上には白銀・こがねの蛤、虚貝(うつせがひ)などを隙なく蒔(ま)かせて、手はいと小さくて、
しら浪に心を寄せて立ちよらばかひなきならぬ心寄せなむ
とて、
kai8.magari.jpg
なかなかの長編になってきました。あと1回くらいで終わるかなー、と漠然と考えていますが。
 涼しくなってきたのでバリバリ描こうという気持ちだけはあるんですけど、実行に移らないのはもう年なんでしょう。

 少将は、朝まだ暗いうちにこの家に入り込んで、夕方までいたんですね。その間ただ屏風の中に座って少女達のあれこれを観察していただけなのですから、辛抱強いことこの上ないですね。空腹とかトイレに行きたいなどの生理的欲求はどうしたんだろう、てのは平安人に対しては愚問なんでしょうか。
 
 後半、少将が用意した洲濱とは、浜辺を模した庭園を、更に模した台のことだそうで、箱庭みたいなものだと思いますが、台になっているので、下には足がついてたりするみたいです。「島台」と訳している場合もあるようです。

 ここでひとつ解決できなかった問題がひとつ。

 本文の「三まがり」というのが、浜辺の湾曲が三つあるということなのか、洲濱自体が三つあるということなのか、どうしても解釈しきれず、無理やり「小箱を三つ置いた」という意味の絵にしてしまいました。
 どう訳すのが最適なのか、教科書等にはどのように説明されているのか、調べきれずに描いてしまったことを先にお詫びいたします。
 正解はこうだ!というご意見は、是非お寄せください。

 多分、あと1回あります。


 さて、母と私は海外旅行から1カ月経った今も、日々享楽的に過ごしております。先週は「映画の日」に『あなたへ』を観に行きました。
 高倉健さんはもう80歳を超えているらしいですが、ちょっと信じられない若々しさですね。80歳以上の自動車の運転は普通なら心配になる年齢ですけど、全くそんな余地のなさでした。ロードムービーなんですね。『ストレイト・ストーリー』を思い出しました。 
 映画を見た数日後に、大滝秀治さんの訃報を耳にしました。ええ〜、お会いしてきたばっかりだったのに・・・なんて気持ちにさせられましたよ。いつ見ても画面ではおじいちゃんなので、死なない人なんじゃないかという錯覚を抱いていた感じです。ご冥福をお祈りいたします。


追記:「三まがり」について、どうやら洲濱の形態のことらしい、ということが何となく分かったので、漫画の中での説明をちょっぴり書きかえました。しかし、かえって分かりにくい事になってしまったかもしれません。すみません。
posted by juppo at 23:14| Comment(2) | TrackBack(0) | 堤中納言物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年08月30日

貝合せF

 引退してませんよ。続きです。
〈本文〉
「ありつる童や言ひ出でむ。」と思ひ居たるに、立ち走りてあなたに往ぬ。いとほそき声にて、
かひなしとなに嘆(なげ)くらむしら浪(なみ)も
君がかたには心寄せてむ
といひたるを、さすがに耳疾(みみと)く聞きつけて、
「今かたへに聞き給ひつや。」
「これは、誰がいふにぞ。」
「観音の出で給ひたるなり。」
「嬉しのわざや。姫君の御前に聞えむ。」
と言ひて、さ言ひがてら、恐ろしくやありけむ、連れて走り入りぬ。
「ようなき事を言ひて、このわたりをや見顕(みあら)はさむ。」
と、胸つぶれてさすがに思ひ居たれど、ただいと慌しく、
「かうかう念じつれば、仏ののたまひつる。」
と語れば、「いと嬉し。」と思ひたる声にて、
「まことかはとよ。恐ろしきまでこそ覚ゆれ。」
とて、頬杖つきやみて
kai7.jpg
〈juppo〉もの凄くお久しぶりです。真夏の間全然ブログを更新しないで、何をやっていたかというと、本当に何もしていませんでした。あ、オリンピックは結構たっぷり見ていました。

 この夏じゅう、我が家ではエアコンのリモコンが行方不明でした。ここまで暑くなってしまった日本でエアコンを使わずに夏を過ごすというのは、本当に命がけなのだなということが少し分かりかけてきた先週、ついに部屋の片隅からリモコンが出土し、生き永らえた喜びとともにこの記事をお届けしている次第であります。

 去年までは、塾で借りていた部屋にエアコンが付いていたし机もあったので、絵を描く作業はそこで行い、家では多少暑くても水を浴びて寝てしまえば良かったのですが、今年はその塾もありません。たったそれだけのために、その部屋を懐かしく思ったことも少なくない夏でした。

 ともかく、エアコンが使えるようになったので、これからはもっとまじめに更新できたらなぁ、なんて思っていますが、暑さで身体も疲れてはいるし、脳みそもちょっと溶けてしまったようなので、まぁ、ぼちぼちやります。


 えーと、ここから本文の説明をちょっとしようかな、と思ったんですけど、大して書き足すことはないですね。お話は前回の続きです。少将が才能を隠しきれずに歌を詠んだりしています。「かひ」とか「かた」とか、掛詞になっていますね。

 3人の女の子が皆同じ顔で、誰が誰だか分かりませんが、別に誰でも良いのです。その中に、最初の頃出てきた女の子がいるんだろうな、くらいに受け取っていただければ。



 ところで!
 再開した途端に大ニュースがあります。

 母と私は、来週なんとオーストラリアに行くことになりました。
 詳しくは次回以降に。

posted by juppo at 00:04| Comment(2) | TrackBack(0) | 堤中納言物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年07月19日

貝合せE

暑くて何もする気になれませんが、更新します。
〈本文〉
髪いと美しげにて、たけに少し足らぬなるべし。こよなく後れたりと見ゆ。
「若君の持ておはしつらむは、など見えぬ。『かねて求めなどはすまじ。』と、たゆめたまふにすかされ奉(たてまつ)りて、よろづはつゆこそ求め侍(はんべ)らずなりにけれど、いと悔しく、少しさりぬべからむものは、分け取らせ給へ。」
など言ふさま、いみじうしたり顔なるに、にくくなりて、「いかでこなたを勝たせてしがな。」と、そゞろに思ひなりぬ。
この君、
「ここにもほかまでは求め侍らぬものを。我が君は何をかは。」
といらへて、居(ゐ)たるさま、うつくしう、うち見まはして渡りぬ。このありつるやうなる童(わらわ)、三四人ばかりつれて、
「我が母の常によみたまひし観音経、わが御(お)まへ負けさせ奉り給ふな。」
と、ただこの居(ゐ)たる戸のもとにしも向きて、念じあへる顔をかしけれど、
kai6.jpg
〈juppo〉ここ数日、尋常ではない暑さにじっと動かないでいるしかなす術もありませんでしたが、やっと今日夕立があってその後は大分涼しくなりました。
 熱中症で倒れた方や、一方では豪雨被害で避難を余儀なくされている方がいると思うと、家の中でぐだぐだやっていれば何とかしのげる暑さなど、ものの数ではないと思いますが、それでもいろんなところで運動量が何割か減少します。

 皆さんも暑い時は無理せず、うだうだやってください。


 さて、私はこの物語を最初に全部読まずに少しずつ作品にしているため、時々うっかりな間違いを犯すことは前にも書きました。今回やっと顔を揃えたこっちとあっちの姫も最初よく分からないで描いていたのが、細部が明らかになるにつれ特徴を少しずつ付け足して描いていたりします。
 その上、内容が分かってくるにつれ人物に対する好悪の情も湧いてくるので、「あっちの姫」は明らかに残念なキャラとして描くに至っている訳です。
 
その判定に多大な影響を与えているのは少将の「つぶやき」ですね。この少将、延々成り行きを見守りつつ、飽きもせず女の子たちを丹念に観察しているのには感心します。

 最後のコマは中途半端に終わっているので分かりにくいかもしれませんが、この女の子たちは敢えて少将にお願いしているのではありません。純粋に観音様にお祈りする方向が、たまたま少将のいる方向だったということなんです。
 次回以降もお読みいただければその辺少しすっきりしていただけると思います。
 なるべく早くすっきりしていただきたいと思っておりますけれども。


 あ、ところで、ブログの引越しの件ですが、完全に頓挫しています。新しく開いたexciteのブログも、ややこしくなるといけないので現在非公開にしています。
 また何か考え付いたら実行します。

posted by juppo at 23:24| Comment(3) | TrackBack(0) | 堤中納言物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年07月14日

貝合せD

お待たせしております。続きです。
〈本文〉
すべて残る隈(くま)なくいみじげなるを、『いかにせさせ給はむずらむ。』と、道のままも思ひまうで来つる。」
とて、顔もつと赤くなりて言ひ居たるに、いとど姫君も心細くなりて、
「なかなかなる事を言ひ始めてけるかな。いとかくは思はざりしを。ことごとしくこそ求め給ひぬれ。」
と宣ふに、
「などか求め給ふまじき。上は、内大臣殿のうへの御許(おんもと)までぞ、請(こ)ひ奉り給ふとこそは言ひしか。これにつけても、「、あはれ、かくは。」
とて、涙もおとしつべき気色ども、をかしと見る程に、このありつる童、
「東(ひんがし)の御方(おんかた)渡らせ給ふ。それ隠させ給へ。」
と言へば、塗り籠めたるところに、皆取り置きつれば、つれなくて居たるに、初めの君よりは、少しおとなびてやと見ゆる人、山吹(やまぶき)・紅梅(こうばい)・薄朽葉(うすくちば)、あはひよからず着ふくだみて、
kai5.jpg
〈juppo〉暑いですね。何しろ暑いです。散々お待たせしてしまった言い訳に暑さを強調しようとしているところです。
 暑いといってもまだ梅雨です。梅雨が明けたらもっと暑くなることはわかっているんですけど、梅雨に生まれた割りに梅雨の蒸し暑さには滅法弱い私です。

 さて、5回目にしてついに「あちらの姫君」登場です。

 ここまでに詳しい説明はありませんが、こちらの姫君とあちらの姫君は、どうやらお父さんが同じでお母さんが違う人という、いわゆる腹違いの姉妹らしいです。
 
 そして弟君が「母のおはせましかば」と言っているのは、既にこの姉弟のお母さんは亡くなっているので、たかが貝合せをするのにも、親のない境遇を歎かずにいられないほど不利な立場だ、という訳なんですね。

 味方が少ないから貝がたくさん集まらないよ、てだけなんですけど、こんな子供の遊びでも、身分とか後ろだてだとかの違いに大きく左右されるのが平安貴族の世界なんでしょうね。まぁいろいろ大変で大騒ぎしてるので、少将もまだしばらく退屈しないで覗き見を続けるみたいですね。

そんな訳で、まだまだ続きます。

posted by juppo at 00:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 堤中納言物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年06月18日

貝合せC

お待たせして恐縮です。続きです。
〈本文〉
十四五ばかりの子ども見えて、いと若くきびはなるかぎり十二三ばかり、ありつる童(わらわ)のやうなる子どもなどして、殊に小箱に入れ、物の蓋(ふた)に入れなどして、持ち違(ちが)ひ騷ぐなかに、母屋(もや)の簾(すだれ)に添へたる几帳(きちよう)のつま打ち上げて、さし出でたる人、僅(わづか)に十三ばかりにやと見えて、額髪(ひたいがみ)のかかりたる程より始めて、この世のものとも見えず美しきに、萩重(はぎがさね)の織物(おりもの)の袿(うちき)、紫苑(しおん)色など押し重ねたる、つらつゑをつきて、いと物悲しげなる。「何事ならむ。」と、心苦しく見れば、十ばかりなる男(おのこ)に、朽葉(くちば)の狩衣(かりぎぬ)・二藍(ふたあい)の指貫(さしぬき)、しどけなく著たる、同じやうなる童に、硯(すずり)の箱よりは見劣りなる紫檀(したん)の箱のいとをかしげなるに、えならぬ貝どもを入れて持て寄る。見するままに、
「思ひ寄らぬ隈(くま)なくこそ。承香殿(そきようでん)の御方などに參り聞えさせつれば、『これをぞ求め得て侍りつれ。』と侍従(じじゆう)の君の語り侍りつるは、大輔(たいふ)の君は、藤壺(ふじつぼ)の御方より、いみじく多く賜(たま)はりにけり。
kai4.jpg
〈juppo〉前回登場した「侍従の君」と「大輔の君」を、男性だと思って描いていたら女性だということが分かりました。急遽、前回の絵も描きなおしました。
 この二人は、敵である「あちらの姫君」の侍女のようで、藤壺の御方というのは縁のある方だそうです。
 また、承香殿の御方というのは、こちらの姫君の姉君なんだそうです。
 まぁだんだんそういう、人間関係の詳しいところも分かってくる訳ですが、分からなくても大体は大丈夫かと。

 とりあえず「あちらの姫君」にはサポーターが何人もいるんですが、こちらには前回女の子が説明していたように、弟君しかいないと。その他大勢の小さい子たちもいるみたいですけどね。
 今回はその、弟君が登場です。姉ちゃんのために貝を集める健気な弟のようです。

 姫君もついに登場しました。姉弟両人の着ているものの説明がまた丁寧にされています。
袿は着物のことで、紫苑色の表着をその上に着ています。朽葉は表が山吹、裏が黄色の色合いのことで、二藍とは藍と紅とで染めた色だそうです。カラーでお見せできないのが、以下略。

 色のことも含めて、漫画に描ききれない情報量の多い作品です。興味のある方はもっと詳しく読み込んでいただきたいです。片手落ちですみません。

posted by juppo at 00:12| Comment(4) | TrackBack(0) | 堤中納言物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年05月31日

貝合せB

面白くなってきました。
〈本文〉
あなたの御方は大輔の君、侍従(じじゅう)の君と貝合せせさせ給はむとて、いみじく集めさせ給ふなり。まろが御前は、唯(ただ)若君一所にて、いみじく理なく覚ゆれば、只今も姉君の御許に人遣らむとて、罷(まか)りなむ。」
と言へば、
「その姫君たちのうちとけ給ひたらむ、格子の間(はざま)などにて見せたまへ。」
といへば、
「人に語り給はば、母もこそ宣(のたま)へ。」
とおづれば、
「物狂ほし。まろは更に物言はぬ人ぞよ。唯人に勝たせ奉らむ、勝たせ奉らじは、心ぞよ。いかなるにか。ひと物扶持(ものふち)。」
と宣へば、萬(よろづ)もおぼえで、
「さらば帰り給ふなよ。隱れ作りてすゑ奉らむ。人の起きぬさきに。いざ給へ。」
とて、西の妻戸に屏風(びゃうぶ)押し疊み寄せたる所に居(す)ゑ置くを、ひろびろ漸(やうや)うなり行くを、
「をさなき子を頼みて、見つけられたらば、よしなかるべきわざぞかし。」
など、思ひ思ひ、間より覗けば、
kai3.5.jpg
〈juppo〉描いていてこんなことを言うのもヘンですが、私も絵に描いてみて初めて「あ、そういうことだったのか」なんて得心がいくことがあります。皆さんも皆さんなりに、作品を漫画化してみてはいかがでしょう。内容理解が深まること間違いありません。

 そういうことかと思いつつ、勘違いで描いている部分もあるかもしれませんけどね。
 今回の「西の妻戸に屏風押し畳み寄せたる」という箇所は特に、「私はこういうことだと思うんだけど」くらいの理解で描いてしまっています。実際どういう風に隠れたのかは知る由もないので、とりあえず隠れて盗み見していることが分かれば御の字かと。
 お供の子供も一緒に隠れていますが、描いてしまってからこういう場合お供は外で待っているはずだったらしいことがわかりました。そうかもしれないけれども、私としては「じゃあお供はどこに隠れたのか」ということが気になります。外で待ってたら隠れている少将のこともバレてしまうのでは?とか。そんなわけで、せっかく描いたお供を消すのも忍びなく、ということも含めて一緒に隠れてもらってます。

 さて、読めば読むほどこの少将はキャラが立っていますね。「中世の“諸星あたる”」と称したいくらいです。
 私の描き方も多少加担しているのかもしれませんが、女に会うために働く頭の回転の速さには感服するしかありません。
 「蔵人の少将」というからには、それなりの身分も地位もあるはずなのに、そんな人がこんなことをしている、それを事細かに描写した物語が長年読み継がれている・・・廃れない文化の基本というのは、結局そういうことなんだなぁ、と考えさせられますね。

 そんな人間味溢れる少将、いたいけな幼女を言葉巧みにまんまとたぶらかして覗きの現場についに到着です。
 
屏風のすき間から垣間見えたものとは・・・!?
続きます。

posted by juppo at 23:47| Comment(8) | TrackBack(0) | 堤中納言物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年05月26日

貝合せA

 暑くなったり寒くなったり。続きです。
〈本文〉
「何わざするならむ。」と床(ゆか)しくて、人目見はかりて、やをらはひりて、いみじく繁き薄の中に立てるに、八九ばかりになる女子のいとをかしげなる、薄色の袙(あこめ)・紅梅などみだれ著たる、小き貝を瑠璃(るり)の壺に入れて、あなたより走る樣の慌(あわただ)しげなるを、「をかし。」と見給ふに、直衣(なほし)の袖を見て、
「こゝに人こそあれ。」
と、何心もなく言ふに、侘(わび)しくなりて、
「あなかま。聞ゆべき事ありて、いと忍びて參り来たる人ぞ。そと寄り給へ。」
と言へば、
「明日の事思ひ侍るに、今より暇なくて、そそき侍(はんべ)るぞ。」
と囀(さへづ)りかけて、往ぬべく見ゆめり。をかしければ、
「何事のさ忙がしくは思さるゝぞ。麿(まろ)をだに思さむとあらば、いみじうをかしき事も加(くは)へてむかし。」
と言へば、名残(なごり)なく立ち止りて、
「この姫君と上との御方の姫君と、貝合せせさせ給はむとて、月頃いみじく集めさせ給ふに、
kai2.jpg
〈juppo〉2回目にして、やっと「貝合せ」という言葉が出てきましたね〜。で、貝合せって一体何?というのが今後の注目になりそうですが、多分「貝合せ」についての詳しい説明は今後の物語の中に出てこないので、ここで説明しておきます。

 小学館「全訳古語例解辞典」によると、
@「物合はせ」の一種。左右二組に分かれて、それぞれ持ち寄った貝を出し合い、美しさ・珍しさ・大きさなどで優劣を競う遊戯。平安時代から始まった。
A「貝覆(かひおほ)ひ」の異称。

 Aの貝覆ひというのは、ハマグリの貝がらを二枚に分けて、片方は伏せて置いて片方は手札にして合った貝を取っていく、神経衰弱のようなカルタのような遊びだったみたいです。

 たくさん貝を集めている、と言っているのは貝の優劣を競うためだと思うので、ここでは@が正解なんでしょう。
 
 貝がらの内側に、きれいな絵を描く芸術家の方をテレビで見たことがあるので、その絵を合わせていくゲームなのかな、と思ったのですが、あくまでも貝自体を競わせるらしいですね。ここでは。
 
 このお話には、登場人物の着ている着物の説明がよく出てきます。女の子が来ている袙(あこめ)というのは、中に着る短い着物だそうです。その上に、紅梅色の着物を無造作に着ているというような様子らしいです。カラーでお見せ出来ないのが残念です。

 それでも可愛い女の子が登場して、ちょっと画面が華やかになったかな、と思います。少将も相手の年齢お構いなしに「をかし」と感想を抱いています。全く、アンテナ張りまくりですね。

 貝合せバトルはどうも身分のよいお姫様同士の対決のようです。身分がなまじ良いので、周りのサポートが半端なく、夜明けから大騒ぎなんですね。

 続きます。





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2012年05月21日

貝合せ@

リクエストにお応えします!相変らずぐだぐだですが、新カテゴリ「堤中納言物語」です!!
〈本文〉
 九月の有明の月に誘はれて、藏人(くらうど)の少將、指貫(さしぬき)つきづきしく引き上げて、ただ一人小舍人童(こどねりわらは)ばかり具して、やがて朝霧も立ち隱しつべく、隙なげなるに、
「をかしからむ所の空きたらむもがな。」
と言ひて歩み行くに、木立をかしき家に、琴(きん)の聲(こゑ)仄(ほの)かに聞ゆるに、いみじう嬉しくなりて、
「めぐる門の側(わき)など、崩れやある。」
と見けれど、いみじく築地など全(また)きに、なかなか侘しく、「いかなる人のかく彈き居たるならむ。」と、理(わり)なくゆかしけれど、すべきかたも覺(おぼ)えで、例の聲出(いだ)させて隨身(ずいじん)にうたはせ給ふ。
  行くかたも忘るるばかり朝ぼらけ
  ひきとどむめる琴の聲かな
とうたはせて、「まことに暫(しば)し内より人や。」と、心時めきし給へど、さもあらねば、口惜しくて歩み過ぎたれば、いと好ましげなる童(わらは)四五人許(ばか)り走り違(ちが)ひ、小舍人童・男(をのこ)など、をかしげなる小箱やうの物を捧げ、をかしき文、袖の上にうち置きて出で入る家あり。
kai1.jpg
〈juppo〉『堤中納言物語』というのは、堤中納言の物語ではないんですね。書いた人の名前なのか、単なる間違いなのか、研究上の諸説があるらしいです。
 この「貝合せ」のお話は教科書に載っているそうです。ところが私の手元にある『堤中納言物語』の訳本にはこの章がなかったので、ネットで本文や訳を探し、それを参考にして漫画にしました。

 とにかく長い話です。一話目の今回は「貝合せ」の貝も出てきません。
 「蔵人の少将」というのは個人名ではなく、役職名です。その少将がまだ月の明るい夜明けに子供をつれて何をしているのかというと、どこかイイ女のいる家にお邪魔したい、というような目的でうろついているのです。琴の音が聞こえてくれば、忍び込める穴が家の囲いにあいてないかな〜、なんて期待してるんです。職質必至な怪しさです。
指貫は少将の履いているハカマのことです。
 子供に歌を歌わせていますが、実はここでの「随身」とは小舍人童とは別人なのだそうです。「ただ一人具して」たはずなのに、もう一人いたの!?と、謎の登場人物です。ここにしか出てこないようですし、別キャラにしてしまうと却ってわかりにくいかと思い、子供にそのまま歌ってもらいました。歌といっても和歌なので、子供はそれを詠みあげているということです。

 長いお話なので、まだまだ続きます。貝はいつ出てくるんでしょう。


 さてブログの引越しについて、前回まで途中経過をお知らせしてきましたが、進捗していません。ちょっと壁にぶちあたってしまい、1からやり直すことも検討中・・・な事態で、exciteは閉じてしまうかもしれません。・・・て、まだ閉じてもいない・・・ほったらかしです。

 ところで、時々コメントやメールで全国の学校の先生方から、このブログに掲載している漫画を授業に使っていいですか、というお問い合わせをいただきます。
 基本的に、コピーなどしてお使いになることに何も制限は設けておりませんので、お問い合わせのある都度「どうぞ。」とお答えしています。
 先日また、ある先生からメールでお問い合わせをいただいたのでやはり「どうぞ」と返信したのですが、そのメールが送信できませんでした。
 これを読んでお心当たりのある先生、私の回答は「どうぞ」ですので、どうぞ、授業でお使いになっていただければ嬉しく思います。
 お返事が遅くなった上にこのような形での返信になってしまって申し訳ありません。ここを見てくださっているといいのですけど!
 

 あ、それから、テストに出るといけないので最後にもう一言。
タイトルの「貝合せ」の読みがなは「かいあわせ」ではなく、「かひあはせ」です。

posted by juppo at 03:25| Comment(2) | TrackBack(0) | 堤中納言物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする