〈本文〉小式部内侍、大二条殿におぼしめされけるころ、久しく仰せ言なかりける夕暮れに、あながちに恋ひ奉りて、端近くながめいたるに、御車の音などもなくて、ふと入らせ給ひければ、待ち得て夜もすがら語らひ申しける。暁方に、いささかまどろみたる夢に、糸の付きたる針を御直衣の袖に刺すと見て夢覚めぬ。
さて帰らせ給ひにけるあしたに、御名残を思ひ出でて、例の端近くながめいたるに、前なる桜の木に糸の下がりたるを、あやしと思ひて見ければ、夢に、御直衣の袖に刺しつる針なりけり。いと不思議なり。
あながちに物を思ふ折には、木草なれども、かやうなることの侍流にや。その夜御渡りあること、まことにはなかりけり。

〈juppo〉iPhoneもMacも、iCloudに牛耳られています。いずれ人類がiCloudに支配される日も近い気がします。そんなことでいいんでしょうか。
今物語(いまものがたり)は鎌倉時代に成立した説話集だそうです。古典作品て、描いても描いてもいくらでも他の作品がありますよねー。カテゴリも随分増えました。実はちょっと前まで、ブログの設定でカテゴリ表示数を制限してしまっていたため、トップページに表示されないカテゴリがありました。気づいて制限数を増やしましたので、この今物語もちゃんと表示されると思います。よろしくお願いします。
本文では大二条殿となっていますが、この人の本名は藤原教通(ふじわらののりみち)というそうなので、漫画ではそちらの名前にしてあります。この方は藤原道長の息子だそうです。今からちょうど1000年前に生きていた方で、当時の天皇に仕えて大臣などしていたらしいです。
一方、小式部内侍(こしきぶのないし)といえば、和泉式部の娘で「十訓抄」の「大江山」に登場していました。以前描いた覚えがあったので、その時のキャラを見直しつつ描きました。
ただただ、不思議な話ですよね。恋する相手を夢に見るだけならず、夢に見た針と糸が庭の木に刺さっている!
・・・で、その針と糸にはどんな意味が?なんてことも気になってしまうんですけど、これは桜の木からのヒントなんでしょうね〜。
直衣は「のうし」と読みますが、歴史的仮名遣いでは「なほし」です。宮中にいる男の人たちが着ているのが、だいたいそれです。