2021年11月08日

持経者叡実効験の事(ぢきやうしやえいじつかうげんのこと)@

今回はリクエスト作品じゃないです。宇治拾遺物語です。宇治拾遺物語ってどれもこんなタイトルなんです。
〈本文〉
 昔、閑院大臣殿、三位中将におはしける時、わらはやみを重くわづらひ給ひけるが、「神名といふ所に、叡実(えいじつ)といふ持経者(ぢきやうしや)なん、わらはやみはよく祈り落し給ふ」と申す人ありければ、「この持経者に祈らせん」とて、行き給ふに、荒見川の程にて早う起り給日ぬ。寺は近くなりければ、これより帰るべきやうなしとて、念じて神名におはして、坊(ばう)の簷(のき)に車を寄せて、案内を言ひ入れ給ふに、「近比(ちかごろ)蒜(ひる)を食ひ侍り」と申す。
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〈juppo〉昨年よりコロナに翻弄される世界になってしまってから、昔から人類はこうして疫病と戦ってきたわけだし、古典作品にもその有様を描いたものがあるのではないかと思い、探したところ、いくつか見つかったうちの一つです。
 ここでの疫病「わらはやみ」は「おこり」と訳してありますが、「おこり」が一体何なのかというと、マラリヤのことのようです。
 持経者というのは主に法華経を読むお坊さんです。そのお坊さんにお経を読んでもらって、マラリヤの類であるおこりを治してもらおう、という話です。

 病をおして出かけていく閑院大臣殿とは、藤原公季(ふじわらきんすえ)と言って藤原師輔(もろすけ)の子、とかいうことです。発熱中なので、マスクをしてもらいました。この時代にこのようなマスクはもちろんなかったと思うのですが、あくまでも演出です。

 発作が起こってしまった荒見川の辺りとは、今は紙屋川というそうです。東京もんには耳慣れない川です。この川と公季さんのご自宅がどの程度の距離なのかもよくわからないですが、とにかくここまで来たなら寺へ行ってしまえ、という程度の距離なんでしょう。

 そうまでして辿り着いた寺では、お目当の坊さんが「蒜を食ひ侍り」と言って面会を渋っているのです。口臭を気にしてのことのようです。
 無事にお経を読んでもらえるのかどうか、続きます。全部で3回です。

 マスク生活もすっかり当たり前になってしまって、ノーマスクの人を見ると見てはいけないものを見てしまったくらいの感覚を覚えますよね。
 もうマスクしなくてもいいよ、という日は訪れるのでしょうか。訪れて欲しいですね。
 久しぶりにマスクを外した人の顔を見ると、ちょっと老けて見えたりするかもしれません。中には「あれ?前と何か顔が違うな」と思える人もいたりするかもしれません。マスクの下はずっと工事中でした、みたいな。


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2021年10月24日

能は歌詠みA

@を上げて1週間ぐらいで続きを更新しようと思っていたのですが、1週間は思いの外速く過ぎてしまい今日になりました。続きです。
〈本文〉
「このはたをりをばきくや。一首つかうまつれ」とおほせられければ、「あをやぎの」と、はじめの句を申出(まうしいだ)したるを、さぶらひける女房達、おりにあはずと思(おもひ)たりげにて、わらひ出だしたりければ、「物をききはてずしてわらふやうやある」と仰(おほせ)られて、「とくつかふまつれ」とありければ、

 青柳のみどりのいとをくりをきて夏へて秋ははたをりぞなく

とよみたりければ、おとゞ感じ給(たまひ)て、萩をりたる御ひたたれを、をしいだしてたまはせけり。寛平歌合に、はつ鴈を、友則、

 春霞かすみていにしかりがねは今ぞなくなる秋霧の上に

とよめる、左方にてありけるに、五文字を詠(よみ)たりける時、右方の人、こゑごゑにわらひけり。さて次の句に、霞ていにしといひけるにこそ音もせずに成(なり)にけれ。おなじ事にや。
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〈juppo〉急に寒くなりました。寒いと、グズグズしますよね。何かと。

 さて前回、唐突に大臣から特技の歌詠みを指摘された侍でした。自ら「得意です!」と言っただけあって、一瞬硬直したものの、与えられたお題「はたをり(きりぎりす)」で見事に詠んでみせた後編です。
 女房たちが笑ったのは、きりぎりすといえば秋なのに、「青柳」は初夏のもので季節が違うよ〜ということなんですけど、その青柳を取っておいて、秋にきりぎりすが機織りしてるよという歌だったんですね。「最後まで聞かんかい!」と女房たちを一喝した大臣、つくづく出来たお人ですね。こういう人が上司であったら仕事も楽しかろうというものですね。
しかも詠まれた歌にかなり心を打たれたようで、すかさず贈り物まで賜ってくださる。太っ腹な上司でもあります。ここが肝心です。

 後半の3コマは、今回のさすがな歌詠みの話はそういえば、かつての歌の名人にも同じようなエピソードがあるよ、という挿話です。別にこの部分がなくても「能は歌詠み」な話は成立すると思うんですけど、こういう他の話に例えるのって、古文の世界ではよくありますね。
 「寛平の歌合」というのは、宇多天皇の時に行われた歌合わせの会のことで、左右に分かれて歌を読みあったんだそうです。友則は紀友則のことかな、と思いましたが、歌は「詠み人知らず」の作品のようです。

 「青柳の」も「春霞」も、その場面だけでなく、次の季節から振り返って詠んだ時の流れも盛り込んだ歌になっているんですね。人が何かを披露しているときは、最後までじっくり見てから批評しようね、というお話ですよね。

 
posted by juppo at 19:35| Comment(0) | 古今著聞集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年10月14日

能は歌詠み@

秋らしくなってまいりました。リクエストにお応えします。いただいてからかなり放置してしまったリクエストです。申し訳ありません。古今著聞集です。
〈本文〉
 花園の左大臣の家に、はじめてまいりたりける侍の、名簿(みやうぶ)のはしがきに、能は歌よみと畫(かき)たりけり。おとゞ、秋のはじめに南殿に出て、はたをりのなくを愛しておはしましけるに、くれければ、「下格子(げかうし)に人まいれ」と仰(おほせ)られけるに、「藏人五位たがひて、人も候はぬ」と申(まうし)て、この侍まいりたるに、「たゞさらば汝おろせ」と仰られければ、まいりたるに、「汝は歌よみな」とありければ、かしこまりて御格子おろしさして候に、
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〈juppo〉「書く」が旧字だったり、「藏」とか「ゞ」とかもう使わない字が多いです。漫画の方では現代の字にしているので、そちらで読んでください。
 侍が「能は歌詠み」と書いたものを「名刺」と訳してありますが、名刺ではないです。就職の際に雇用主に出す「名ふだ」と解説にはありましたが、履歴書みたいなものでしょうね。履歴書に「長所・短所」を書く時って、悩みますよね。自分では長所だと思っているけれど、どうかなー、とか、長所なんてないなー、と一人で落ち込んでしまったり、とか。
 
 この侍は素直に「歌詠み得意です!」と書いて出しました。そんなはしがきに、しっかり目を留めていた左大臣、さすがです。「えっ、覚えてくださってる!」と急に固まる侍です。続きは後半で、になります。

 「はたをり」は「キリギリス」のことです。「南殿」は「なんでん」と読んで、南向きの御殿です。
 「藏人五位たがひて」というのは、それまで六位だった蔵人が六年の勤務後に五位に昇進して、一旦殿上から下がるそうで、ちょうど人事異動のまっ最中で今いません、ということのようです。
 そんな折にい合わせた侍、ということです。いろいろと難しい言葉はありますが、そういうものがあるんだな、とあまり気にせず読んでいいと思います。

 続きがもう一回。近日中に。
posted by juppo at 09:40| Comment(0) | 古今著聞集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年09月23日

世の人の心まどはす事

夏は夏で夏バテで仕事がはかどりませんが、秋になって涼しくなると、また安心して仕事を忘れてしまうようです。今日は暑いですけど。ご無沙汰しました。徒然草、第八弾です。
〈本文〉
 世の人の心まどはす事、色欲にはしかず。人の心はおろかなるものかな。匂(にほ)ひなどはかりのものなるに、しばらく衣裳(いしやう)に薫物(たきもの)すと知りながら、えならぬ匂ひには、必ず心ときめきするものなり。久米の仙人の、物洗ふ女の脛(はぎ)の白きを見て、通(つう)を失ひけんは、誠に手足・はだへなどのきよらに、肥えあぶらづきたらんは、外(ほか)の色ならねば、さもあらんかし。
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〈juppo〉暑いの涼しいのに関係なく、そういえばこのお話の訳だけ1ヶ月くらい前に作っておいて、それがどこかにいってしまい、しばし探し回っていたのでした。

 「徒然草」なんですけど、色っぽいお話です。教科書には載っていなさそうです。リクエストをいただいたわけでもありません。以前「あだし野の露」を描いた時にKSTプロダクションから送ってもらった詳しい本文の続きにあったので、ついでだから描こうかな、とコピーを捨てないで取っておいたのです。描いてみて初めて、セクシーな話だったと理解しました。

 人の心は色香に迷わされる愚かさも持っているけれど、異性の姿に惹かれるのはそれが自然なものだからで当然のことなのだ、というお話です。それこそ種の本能ってものですよね。

 後半に登場する「久米の仙人」は空を飛ぶ力も持っていたのに、飛行中にこういう事態になってその後神通力を失ったものの、その女性を妻として普通の暮らしをしたとかなんとか、伝説があるそうです。

 教科書には載ってないでしょうけど、こんなお話も載っていたら勉強も楽しいですよね、きっと。
posted by juppo at 22:56| Comment(0) | 徒然草 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年08月26日

鳥飼院B

また暑くなりました。いつまで暑いのでしょう。体が持ちません。最終回です。
〈本文〉
かづきあまりて、ふた間(ま)ばかり積みてぞおきたりける。かくて、かへりたまふとて、南院(なんゐん)の七郎君(しちらうぎみ)といふ人ありけり。それなむ、このうかれめのすむあたりに、家つくりてすむと聞(きこ)しめして、それになむ、のたまひあづけたる。「かれが申さむこと、院に奏(そう)せよ。院よりたまはせむ物も、かの七郎君につかはさむ。すべてかれにわびしきめな見せそ」とおほせたまうければ、つねになむとぶらひかへりみける。
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〈juppo〉夏バテで果ててしまう前に最終回を迎えられて何よりです。もうすっかりお忘れかもしれませんが、「かづく」という動詞の話を前回しました。回をまたいで、今回その「かづく」から始まっています。これについての説明は前回したのでもういいですね。

 とにかくご褒美に衣服をたんまりいただいたようです。いただいた衣服は左肩にかけるそうなんですが、かけきらないので積んであります。「ふた間」の「間」には今のように「部屋」という意味と「柱と柱の間」という意味があるそうです。積まれたものの量が、すごくたくさんなんだろう、と思っておけば良いと思います。

 帝はこの遊女を気に入ったのでしょうが、そこはやはり身分というものがあるので、しかるべき所に置いて、ちょっと離れて大事にしようと思ったようですね。「南院」は天皇の皇子の一人を指すようですが、「七郎君」が誰なのかは定かでないようです。それなりに確かな身の上の人なんでしょう、世話を頼むくらいですから。つい「しちろうくん」と読んでしまいますが、別にそれでもいいと思います。違ってますけど。

 最終回なのに、なんだか投げやりな説明になってますね。暑さのせいだと思ってください。
 次回に何を描くかも、ちょっと未定です。
posted by juppo at 21:25| Comment(0) | 大和物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする